オープンスクール　〜みんなで寝子島中学校へ行こう〜｜リアクション

オープンスクール　〜みんなで寝子島中学校へ行こう〜

　主婦、白石妙子の一人息子は小学３年生である。
　他人の視点では大人になるのはまだまだ——とも思えるが、母親の妙子には遠くても近い将来に見えていた。
（うちの子はまだまだ頼りないけど、もうすぐ上級生なのよね。
　あの子、下の学年の子たちの面倒をちゃんとみられるのかしら、……中学に行ったら？　ちゃんとやっていけるかしら？）
　一つ考えればきりがなくなる疑問を、少しだけ解決してくれそうなイベントを知ったのは、つい最近のことである。
（オープンスクールって近所の人でも入れるのよね。一年生のときお世話になったお兄さんお姉さんの様子も見てみたいし、せっかくだから——）
　妙子は場違いではないからしらと思いつつも、寝子島中学校に足を運んだ。

　施設案内図を見て回った校内で廊下を歩きながら、妙子が一番気になってしまったのは、保護者の様子である。
　気の弱い性格と人見知りから、妙子は今もなかなか保護者仲間に自分から話しかけられない。中学には、より年上の女性も多いから、圧倒されてしまう。もちろん息子が進学する頃には妙子自身が年を重ねているのだが、それとこれとは別の話だ。
（私、なじめるかしら？　受験の情報とかはママ友さんの情報を知らないと不利になりそうだし……）
　保護者の中には外国人もいた。寝子島中学校は特別モデル校で、帰国子女や留学生の受け入れもしているからだろう。彼女たちも他の保護者と和やかに会話しているが、妙子は気後れしてしまう。
　ふと前を小走りで行った男子生徒も、ところどころ巻いた髪は金色混ざりで明るく、すれ違う時に見えた目も青っぽく見えた。
（小学校もそうだけど、時代の流れよね）　
　と、納得しかけていた妙子だが、次に見えた生徒は受け入れ難かった。
　中学生の中でも保護者の中でも浮くような長身の髪が、人類にはあり得ない色なのだ。
（む、紫！？　染めてるのかしら？）
　更にそこへ集まってきた数人の中に、ピンクっぽい髪の生徒もいる。
（なんだか怖そうな子もいるわね……）
　意気消沈してしまう妙子である。
　

　その後、妙子は体育館でのスピーチコンテストを覗いてから帰宅することにした。
（いろんな子がいるわね。私はこういうの苦手だから尊敬しちゃうわ）
　自分の参考になれば、などと考えながら見ていると校長杉村小春が壇上に現れて挨拶を始める。
（あれが校長先生？　厳しそうね……）
　内心汗をかいてしまうも、息子が中学に上がるころに同じ先生かも分からないし……と考えていたら、外に出ようとする保護者の波に乗り損ねてしまった。
　仕方なく順番待ちをしていた時だ。
　妙子の横を小学生の女児が通り過ぎた。息子より大きいから４、５年生くらいかしら、でも女の子の成長は早いし——。
「おにい！」
　少女の声に振り返ったのは、あのピンクっぽい髪の男子生徒だ。怖そうだと思っていた妙子は少しドキッとしてしまった。喧嘩になったりしないかしら。
「奏！？　なんでいるんだよ」
「別にっ。いいじゃんあたしだってこの中学入るんだもん」
「今年じゃないだろ」
　奏はプイッと横を向いたが、すぐに兄のベルトに指をひっかけた。
「ねーおにい、いつ終わるの？　早く帰ろうよ。奏お腹空いた！」
「おっさんたちと先に帰れば良かっただろ」
　奏が口を尖らせると、兄はやれやれと歩き出した。口では反発しあっていても、仲の良さそうな兄弟に見える。
　人は見た目が８割と言うが、そこに縛られているのはよくないと感じた妙子だ。
（根は優しいんだと思うわ。……子供を信じてあげなくちゃね）
　振り返ると扉も空き始めている。
　帰ったら息子に今日の話をしてあげようと考えながら、妙子は帰路に着いた。

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