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ＭＦＳ！ ～あるいは全ての表現者に捧ぐ、夜半過ぎのＴＶショウ
『可憐！ 胡乱路秘子デビューライブ！』（７）
「あああ！！ ああ！！ あああ……あああ ああああああ！！ あ あ ああああああ…………
ィやァあああああああああああああああゥッ」
「秘子ちゃんッ！！」
「胡乱路……！！」
痩せた身体を抱えてまぶしいステージの真ん中にうずくまった秘子へ、真っ先に駆け寄ったのは八十八旗 信彦と、観客席を飛び出したロベルト・エメリヤノフでした。信彦はすぐにも脱いだジャケットを彼女の肩へかけ、ロベルトはその肩へ手を添えて、ふたりは苦渋の顔で彼女を見据えます。
「…………わ……わたしの…………わたしの、デビューが……わたしの、デビューライブが…………う あ あ あああああ！！ は、う、ううゥ、ううゥ、ゥゥゥうウ…………」
「落ち着いて、胡乱路！！」
見たことも無いほどに錯乱した秘子の肩をロベルトは揺さぶるも、ぐるぐると四方へ泳ぐ金色の瞳は焦点を失い定まらず、止めどなく吹き出した冷たい汗と涙で、顔はくしゃくしゃに崩れて、見る影もなく。
「なぜだあッ！！！！」
叫びは、赤い腕章のスタッフたちにがんじがらめに腕を掴まれ身動き取れない、矢萩 咲。
「なぜ、どうしてこんな……なぜだ！！」
「ふふふ。ふふ、ふふふ。なぜ、って？」
にわかに周囲の照明が暗く落ちて、頭上の真っ赤な月明かりだけがぼんやりとステージを浮かび上がらせる中。ばしん！ 切り裂くスポットライトが照らし出した、ひとりの少女。
毒島 虹子。
がくがくと、支える信彦やロベルトが抑えきれないほどに震えながら、見上げた秘子の顔にはいっぱいの、疑問の色。信じられない、という表情を浮かべながら、それでもいつだって染み付いた笑顔を絶やさない、彼女の泣き顔は半分、笑い顔。
「…………ど……して？ ぶすじま、さ…………わたしたち、おともだち、って……」
「お友だち？」
虹子は冷たく、すがるようなその顔を一瞥してから、ぐるり。視線を巡らせます。信彦、ロベルト、咲。雨寺 凛、黒依 アリーセ、恵御納 夏朝。花菱 朱音、後木 真央。茫然と見つめた彼らを。
そうして、半ば吐き捨てるように。
「素敵な素敵な、フツウのお友だち。一緒にしないでいただけます？」
ばしん、ばしん！ スポットライトは暗闇を走り抜け、その全てが泣き濡れた彼女を素通りし、虹子をまぶしく照らし出します。
片手にはマイク。片手は大きく掲げて、黒猫たちへ。視聴者たちへ。それに、共演者たちへ。
「はあ、まったく。皆さん、興ざめですわ！ 他人の人生を弄ぶなら、せめてこのくらいのことはしてくださらないかしら？ 汗水たらしてこその悲劇、絶望。素晴らしいショウですわよ」
深く、深く息を吐いて、語ります。
「没個性的な制服を着て、べたべたと馴れ合って。自分に似ている気がするから？ ふふッ、お友だちになりたいから？ そんな自分勝手な願望を押し付けられるまま、さして上手くもない素人同然の歌を歌い、二度と日の目を見ることも無い、在りし日の夢に燻る日常。それが、あなたがたの望むことでしょう？」
今やここは、彼女のためのステージ。オーバーアクション、両手を振り上げて、いっぱいの光を浴びながら、今こそ虹子は叫びます。
彼女自身を。
「ああ！！ なぜ私の愛する滑稽な悲劇や愉快な絶望が、そんなありふれてつまらない、フツウの……希望？ そんなものに、踏み台にされなければならないのですか？」
虹子は自身の備える毒を、はっきりと自覚しています。他者のたどる不幸な末路、おぞましい殺戮の果て、裏切りや悔恨の末の絶望。それらを観察し、愛でることこそが、彼女にとって至上の喜びです。けれど実生活において、そうした彼女本来の欲望を大っぴらにさらけ出すことについては、もちろん多大なるリスクがありました……常に、家柄やその社会的地位を利用し、表沙汰にならないよう心を配る必要がありました。
「『ＭＦＳ！』は、そんな私の心の隙間を埋めてくれる、大切な、大切な番組なんです。そして秘子さん、あなたとは、素敵な絶望を共有することのできる、そう……お友だち。そう思っていたのに」
ぞくりと肌が粟立つような、見下した視線。秘子はびくりと跳ねるようにしてロベルトへすがりつき、がくがくと肩を震わせます。
「でも、あなたにとっての『ＭＦＳ！』とは、単なる踏み台に過ぎなかったのですね」
「ち……ちがっ…………わたしは、この番組だって…………だって、わたしの、はじめての番組だもの……一生懸命…………でも、わたしには、ゆ……ゆっ、夢が、あって！ だから…………」
たとえばそれは、花や蝶と同じ。美しいもの、見目麗しく心和ませるもの、人がそうしたものを見つめる時の感性に似ています。
虹子にとってはその対象が、心砕くほどの絶望や、他者の抱く負の感情、ことに醜いそれらであるというだけ。フツウや希望こそが、彼女自身を責め苛む、絶望に他ならないのです。
だから彼女は、手折られた儚い花を想うように。心無い者への侮蔑と、嫌悪を込めて。
「秘子さん。私の愛する絶望を、『ＭＦＳ！』を、無残にも踏みにじったあなたを……私は決して、許しませんわ」
ぐるりと目を剥いて、秘子は気を失いました。
＜『可憐！ 胡乱路秘子デビューライブ！』 終＞
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2016年07月23日
- 参加申し込みの期限
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- 2016年07月30日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2016年07月30日 11時00分
