『輝け！　ミッドナイト・フリーキー・コンテスト！　第二部』（６）

「ミッドナイト・フリーキー・コンテスト、トリを飾りますのはこの方でございます！！」
　ノイジー・パンジーがどこか感慨深げにマイクへ叫び、掲げた手のひらの向こうには、七峯 亨。彼が今夜のパフォーマンス、そのラストを飾ります！
「七峯さん、見どころを教えていただけますか？」
「そうだな。プロジェクションマッピングと和ロックの調べに乗せた、一寸法師演舞！　豪華絢爛なステージに期待してくれ」
　言いつつぱちり、ウィンクなどして見せると、キャーーーッ♪　視聴者の主に女性の皆さまからは黄色い声が寄せられて、期待感はうなぎ上り！　でありました。
「よし、いっちょやるか！」
　そんなわけで、コンテスト最後の舞台は、てけてんてけてけ、てけてけてん。軽やかな和楽器の音色で幕を上げるのでした。

---

　背後に一面、巨大なバックスクリーン。煌々と輝くのは、今夜を象徴するような赤く奇怪なそれではなく、真っ白な美しい月。
　その中に舞う影絵はゆるりと優美な衣を引いて、細長い櫂で波紋を揺らす水面を漕いで。やがて影は色付いてゆき……現れるのは茶碗の船を操る一寸法師に扮した、亨！
　途端に和のリズムへ、清廉なピアノの音色が加わり、場内を走り抜け。ステージは映し出される映像を重ね合わせて、瞬く間に水飛沫の砕ける急流へと早変わり。
　そう、プロジェクションマッピング！　今や床はうねって広大な潮となり、一寸法師こと亨は、手にした長槍を舵の代わりに、小さな茶碗で荒れ狂う波間をざんぶと乗り越えていきます。バックスクリーンへ跳ね上がる波間へ槍をかざすと、穂先はきらりと輝きを返し、そのうち映像の海は観客席にまで広がって、そのリアリティには安穏と眺める黒猫たちが、あっぷあっぷ！　にわかに泡を食うほど。
　亨が槍を突き、
「いよっ、と！」
　茶碗の船は波に乗って、ジャンプ！　大ジャンプ！　寸分たがわずに鳴る派手な水音も相まって、そこはもはや亨の海。
　そのうちに、急流は徐々に穏やかになり、海は河となって、月明りの下へ横たわる都の美しい街並みが、きらきらと姿を現します。
　壮麗な門を有する大きなお屋敷の前へと到着したその時に、翳る月。まばゆい光を遮って、そびえ立つシルエットの頭には、二本の角。
「さあて、鬼退治と洒落こむぜ」
　事も無く言ってのけ、亨は巨大な鬼へと挑みます。



　何ともこれが、巨大と言うにもまだ足りないほどの、亨の数十倍はあろうかという、まさしく山のごとき鬼でありました。
「小賢しいチビめ、取って食ろうてやろうか！」
　それもそのはず、これもまた演出のひとつ……現れた鬼はバックスクリーンめいっぱいに映し出された映像で、カツラと恐ろしげなメイクで変身した、亨自身のＣＧなのです。どこか中性的な美貌を持つ鬼、その動きにはモーションキャプチャーが用いられていて、武術の嗜みもある亨の動きを余すことなく再現！　地へ足を踏み鳴らすなり、爆音とともに画面もがたがたと大揺れ、大迫力！
「やれるもんなら、やってみな！」
　そんな鬼へと、しゅらん！　抜き放つ白刃。右に刀、左に槍を携えた一寸法師は臆することなく、突撃！
　笛の音が鳴り響き、月へ散り映える桜の花びら。流れるＢＧＭも途端に激しさを増し、三味線に鼓の雅やかな和楽と、ギターにドラムのリズムが折り重なって混ざり合い、決戦を演出、盛り上げるのはこれぞまさしく、激しい和ロックの妙技の粋！
　ぎらりと鋭利な爪がきらめき、ぐわ、と伸びる手は一寸法師を捉えようとして、縦横無尽。踏み潰そうと鬼の足が上下するたび、どん、どどん！　ドラムが腹に響く低音を響かせて……しゅばずば、どどどん！
　そして、そこへと重なるのは一寸法師、亨の華麗なる演舞。刀を振るっては跳ね飛び、槍を突いては股下をくぐって、四方八方大立ち回り！　そのたび足元で、高下駄が小気味良くかんかん、かかんっ！　タップダンスのリズムまでも、全ての音がひとつの楽曲として折り重なり、練り上げられていくのです。
「鬼さんこちら、ってな！」
「ええい、こしゃくなチビめ！」
　鋭い爪を刀で弾けば閃光と鈴の音がしゃらんと鳴り、鬼の肌を斬り付ければ桜が散って、丁々発止。乱れ咲き！
　やがて舞台は、クライマックスへ。今度こそ一寸を捉え喰らおうと引き裂く爪……退くことなく、亨は真正面を駆け抜け、今こそ。吶喊ーーーッ！！
　交錯、決着の瞬間にかかっとまばゆい光が迸り、暗転。一面に咲いた白い桜は、まるで砕けたガラスのようにはらはらと散り落ちて……刹那の静けさの中。再びステージを満たす和楽のリズムと、美しくも儚い、凛と鳴るピアノの調べ。
　しゃらん、と鈴の音。灯篭のような穏やかなスポットライトが照らし、浮かび上がるのは、

「俺の勝ちだ。こいつはいただくぜ？」
　一寸。その手にきらめく、打ち出の小槌！
　勝利とともに、御伽草子の英雄譚は、ここに幕を下ろしたのでした。

---

「ッキャーーー♪　ああもうたまんないわね、イケメンのアクションシーンとかさぁ、お酒が進んじゃうわけよこれが。うひひひひ♪　ヒック……あのＢＧＭやら立ち回りの音やらが全部一緒になって、しゅばしゅばしゃきーん、どんどこどん！　っての、気持ち良かったわねー。ぱーって桜も咲いちゃって、お花見で余興見てる気分よねー。何てゼイタク！　あーねぇねぇスタッフさーん、ワインも飽きちゃったし、日本酒なーい日本酒ー？　ヒック！」



　何やらご機嫌な理事長先生の反応に、亨はにやり。スピーカーからは視聴者の歓声と拍手もわんさと届いて、手応えはバッチリです。
「まずはやり切ったな。さーてそれじゃ、俺は姐さんでも探しに行くかね」
　からんころろん、からころん。下駄の音を響かせながら、彼は飄々として、どこかへ歩き去っていきました。



　ぱぁん！　と飛び出すクラッカー、舞い散る花吹雪。拍手とともに、ノイジー・パンジー！
「お疲れさまでした！　これにてミッドナイト・フリーキー・コンテスト、全ての演目が終了と相成りました。いずれ劣らぬ素晴らしいステージに、私も興奮冷めやらず！　まこと、至福のひと時でございましたッ！」
　誘うようにぱちぱちぱちと手を叩くと、四方八方から乱れ飛ぶ、拍手喝采雨あられ！！
「さて、お名残り惜しくはありますが、ステージはこれにて閉幕となります……司会進行は私ノイジー・パンジー、審査員は中沢市長、桜栄理事長、五十嵐先生でお送りいたしました！」
「へーい」
「うーい。ヒック！」
「おふたりとも、最後まで適当すぎますよ。皆さんお疲れさまでした」
「番組はこの後も、まだまだ続きます。皆さまどうぞ、ごゆっくりとお楽しみくださいませ！　チャンネルはそのままでッ！」
　そうしてようやく、パンジーは何の変哲もない、浅葱 あやめへと戻っていき。
　ばしん！　スポットライトは明かりを灯すのをやめ、舞台は暗転。そこには赤い月と、冷めやらぬ興奮の声。止めどなく鳴り止まない、拍手だけが残されました。

＜『輝け！　ミッドナイト・フリーキー・コンテスト！』　終＞

【59% vs 41%】