【開幕、オモチャ天国！】

　ホビーフェスティバル！　年に一度のオモチャの祭典として有名なこのイベント、寝子島での開催は今回が初めてということで、会場となった寝子電スタジアムには、その始まりを待ちわびていたオモチャ好きな子どもたち……あるいはもうちょっと大きなお友だちも詰めかけて、これでもかと大盛り上がり！　本日は晴天にも恵まれまして、冬のさなかにも関わらず、場内にはとんでもない熱量が立ち込めておりました。
　各出展企業ごとに仕切られたブースの中には、色とりどり、実に多種多様なオモチャの数々が並び、
「ふわぁぁぁ……！！」
　この場を訪れた曖浜 瑠樹くんの瞳はもー、きらっきら！　輝いております。
「かわいいぬいぐるみとか、ゆるキャラがいっぱいだねぇ…………あ！」
　足を踏み入れるなり、まずは目に付きましたのは、ひときわ大きなふたつの特大ぬいぐるみ！　並び立つ、
「サンマさんとマンボウくんだぁ♪」
　寝子島観光大使（と見習い）の、大きな大きな、ふわふわぬいぐるみ！　瑠樹の瞳は、ぴっかーっとますます輝きを増してしまいます。
　おまけに、マンボウくんの帽子やワッペン、マフラーなどのグッズで身を固めたスタッフのお姉さんが親切にも、教えてくれまして。
「……えっ、写真撮ってもいいのぉ？　それに触っても、抱き着いてもいいのぉ……！？　やったぁ！」
　各企業がこぞって、自慢のオモチャの触り心地、遊び心地を各方面へアピールするのが目的……とかなんとか、そのへんのトコロは、瑠樹には良く分かりませんでしたけれど。ともかく展示しているオモチャは全て、撮り放題の触り放題！　遊び放題！　何とも大盤振る舞いに、瑠樹はさっそく、
「わあい、サンマさ……」
「いやーーーんかわいいーーーっ、それにこのふかふかの抱き心地ったらもう！！」
　ふにゅ、ふにゅんっ。サンマさんぬいぐるみへ同時に抱きついたのは、こちらもゆるキャラぬいぐるみ大好き！　多喜 美律でありました。
　ふたりはぱちくり、はたと目を合わせまして、
「あら！　ごめんね、びっくりさせちゃった？」
「ううん、そんなことないよぉ？　サンマさんもマンボウくんも、かわいいもんねぇ！」
「うんうん！　もーたまんないわよねっ」
　どちらも無類のかわいいもの好き、実に趣味が合いそうです。
　ちなみに瑠樹くん、残念ながらご両親がお仕事で来られなかったそうで、今日はひとりで会場を訪れたとのこと。美律もまたおひとりでのご来場ということでして、
「それなら、お姉さんと一緒に回る？」
「わぁ、いいの？　じゃ、一緒に行こうねぇ！」
　そんなわけで仲良くふたり、イベントを見て回ることにしました。
　目指すは会場内のゆるキャラ、ぬいぐるみ全制覇！　……と、もちろんその前に、特大サンマさん＆マンボウくんにもう一度、ふにゅっ、むぎゅっ！　とするのは忘れずに。
「ふぁぁ……ふかふかで気持ち良いねぇ♪」
「んんんーーーっ！　この抱き心地、感動！　もー、至福よね♪」



　ぱしゃぱしゃぱしゃ！　スマホのカメラでシャッター切りまくりなのは、羽生 碧南です。
「す、すごい……！　立体化されたら、こんな風になるのね……！」
　並ぶラインナップが少々濃い目なこちらのブースには、アニメやらゲームやらの美少女・美少年キャラクターの、精巧かつケレン味にあふれたフィギュアたちがずらずら、ずらり！
　中でも碧南の目を惹きつけて止まないのは、凛々しくも危険な魅力をかもしだす、イケメンフィギュアのひとつです。
「『酒田塩納豆』の、クールでルール無用なイリーガル感がまさか、ここまで完璧に再現されてるなんて……っ！！」
　ぱしゃぱしゃ、ぱしゃり！　何のことかと言いますと、納豆を擬人化した『納豆男子』たちが活躍する人気ゲーム、『納豆乱舞』のキャラクター商品でありました。
　碧南の反応が示すとおりに、その出来具合が何とも、高クォリティ！　複雑精緻な服装のディテール、優美な裾の翻り、ふんわりと風をはらむ髪のなびき具合などなど、これがメーカーさん入魂のすさまじい仕上がり。碧南はあらゆる角度からカメラを構えては、ぱしゃりぱしゃりと熱心にシャッターを切り、それでもってついでに、
「ああ……！　この危険な輝きの瞳に見つめられたら、私もう、もう……！」
　得意の（？）脳内トリップ、待ったなし！　180cmの高身長ながら、ふんわり可愛らしい美少女といった風情の碧南ですけれど、そんな風に夢中な様子はどうにもこう……うん。残念な感じなのでした。
「ふむふむ、なるほど。確かにこの衣装は、出来がよろしいですわねぇ？」
　とはいえ中には、ちょっぴり注目するところは違えども、共感してくれる人もおりまして……じーっと横から、美男子フィギュアの服飾などチェックしているのは、毒島 虹子です。途端、碧南のお顔は、ぱあっ！　と輝きます。
「わ、分かる？　やっぱり分かるわよね、この素晴らしさ……！」
「ええ、服飾デザインを学ぶ人間としては、こういった玩具の衣装にも興味がありますのよ」
　なんて言いつつも虹子は、ぺろり。悪戯っぽくちょっぴり舌を出しまして、
「というより……実は、私がいつも遊んでいるゲームの新作や関連商品が、このホビーフェスティバルに出展されていると聞きまして。楽しみにしていたんですの」
「ゲーム？　何て言うゲームかな、私ちょっと詳しいわよ？」
　乙女ゲーなら任せて！　という碧南の語るゲームとは、どうも少々ベクトルが違うような気がしつつ。ともかく虹子は、尋ねます。
「『ニャンカツ！』、というゲームなのですけれど。どのあたりに出展されているか、ご存じですか？」
「ああ、それなら確か、あっちのほうで見かけたような……いいわ、案内してあげる」
　『納豆乱舞』への共感に気を良くしたのでしょうか、碧南は虹子を、アーケードゲーム関連のブースへ案内してあげることにしました。
　……の前に、くるりっ！　振り返って、
「塩納豆くん、また後で来るから、待っててねー！」
　瞳はきらきら。きらりん！　何とも、ブレない碧南でありました。