【ドリル＆ハート】

　ぐるぐる回るドリルの先端が、ぷにゅんっ。
「うーん、おっぱいぽよーんやな」
「こらこら。いくら小萩のお胸が大きくても、ドリルでつついたらダメですよ！」
　ぷにゅにゅ、ぷにゅんっ。
　イベントの目玉企画、ニャンプラ選手権では当日の飛び入り参加も大歓迎！　とのことで、展示ブースのお隣には、ニャンプラ制作体験コーナーなるものが併設されておりました。各種様々なニャンプラを使って、その場で作品を作れて出展もできるという楽しいブースでは、老若男女、多くの来場者がニャンプラ作りに挑戦中。なかなかに盛況なのです。
　そこでたまたま同じテーブルへ着くこととなったのが、苑下 ちかと、本条 小萩でありました。顔を合わせてみますとこのふたり、何だか気が合うようでして、
「ちかなー、プラモつくるん初めてや。初心者やねん」
「小萩も似たようなものです。これが人生で２回目のニャンプラですねー。でも小萩の才能なら、きっとすぐに傑作が作れ……ああ、部品を手でもぎとってはいけませんよー！　ちゃんとニッパーを使いましょう！」
「にっぱー。これやんな？」
「そうそう。その道具で、ぱちんっと切り取りましょう」
「わかったー、おおきにねーちゃん♪」
「いえいえ……何だか妹ができたみたいで、楽しいですねー」
　と、ちかは頼りになるお姉ちゃんに甘えるように、小萩は元気で楽しい妹の世話を焼くように。あっという間に、すっかり仲良し！　まるで本物の姉妹のようにも見えて、周囲の来場客たちをほんわか、ほわんと和ませているのでした。　
「ねーちゃんのん、かいらしなー。ハートついてるんポイントたかいわー」
「ふふー、キューピッド☆ミサイルです！」
　小萩がぱちぱちとたくさん作っては並べているのは、円筒形のミサイル……ニャンダムにも良く登場する、実に定番の武器なのですけれど、
「このミサイルの先端に、こうしてハート型のミニチャームを付ければ……はいっ、キューピッドの愛の矢ならぬ、愛のミサイルが完成です！」
　これが何とも、キュート！　とにかくそんなミサイルがいっぱいの、メルヘンなロボットを作りたいのだそうです。
　一方のちかはと言いますと、
「ちかさんのは、ドリルがたくさんですねー。というかドリルばっかりですね！」
「あんなー、ぎょーさんドリルつけんねん。１００コくらい！　これなー、ぐいーん回るやろ？　ほなあれやねん、敵なーどーんどかーんぼーん！　やねん」
　どーん、どかーん！　と口で言いつつ、ドリルをぷにゅ、ぷにゅんっ。
「こらー、ドリルで小萩のお胸をつついたらダメですよー！」
「かんにんなーねーちゃん。それにしてもおっぱいぽよーんやな、そんくらいのやらかさの土で、どろだんごつくれたらサイコーやな」
「どろだんご？」
「せやねん、耳たぶくらいのやらかさがええねん」
「なるほど！　小萩のお胸のような感触のようなどろだんごなら、子どもたちも大喜びですねー」
「ねーちゃん話分かるなー、さてはどろだんごのプロやな？」
　なんて、噛み合ってるやらいないやら。
　そんな会話をかわしつつも、ぱちぱちとニャンプラを組み立てていくふたりの様子は、まさしく互いを慕う仲睦まじい姉妹といったところでして、大変に微笑ましいのでした。



　そんなわけでしばしの後、ふたりのニャンプラは完成！
「おっ、すげーのがあるじゃん！」
　出展されたそれらを眺めているのは、宇佐見 望月に佐藤 英二、鷹取 洋二の三人です。
　英二は、ハートが散りばめられた可愛らしいニャンプラと、その製作者の名前を見るに、
「あ。これ、本条さんの……？」
　実は小萩が初めて作ったニャンプラは、クリスマスに英二が、プレゼント交換で用意したものだったりしました。ハイテクが怖い小萩は、機械っぽいパーツがたくさんのニャンプラにもいくらか及び腰ではありましたけれど、せっかくのクリスマスプレゼントということで頑張って組み立ててみたら、ちょっぴり平気になったのだそうでして。
　とはいえ純粋にニャンダム好きな英二としては、布教成功！　といったところでありましょう。
「どうですか、小萩の『キューピッド☆ズニャ』は！」
　自信タップリな声に振り返ると、そこには件の小萩ちゃんが、ばばん！　と仁王立ち。
「ミサイルがいっぱいで強そうでしょー？　でもそれだけで終わらないのが、小萩のすごいところです。ハートをつけたミサイルで、全方位に愛を振り撒く、愛の使者！　それがキューピッド☆ズニャなんです！」
　ニャンダムとは思えない、メルヘンで可愛らしい作品ですけれど。熱いジオラマの作者たちからも、これが評判は上々！
「この発想は無かったぜ……でも自由なアイディアで楽しめるのが、ニャンプラの良いところだもんな！」
「うん、本条さんがニャンプラを好きになってくれて、嬉しいよ。プレゼント交換にニャンプラを用意した甲斐があったかな」
「ふふー、大好評ですね！　ニャンプラの才能もあるなんて、さすが小萩です！」
　ほんわか可愛い『ズニャ』のお隣には、何やらトゲトゲとしたロボットが、ちょこんっと鎮座。洋二がしげしげとそれを見つめて、
「これはまた、ストレートだね。強そうだ」
「せやねん、かいらしけど、おとろしやろ？」
　ちかも得意げに胸を反らして、自分の作品を解説してくれました。丸っこくてずんぐりとしたフォルムのロボットは、どこもかしこもとげとげぐるぐる、ドリルだらけ！　タイトルはその名も、『モグラッガイ』だそうです。
「ニャッガイにな、ぎょーさんドリルつけたんや。ほんでな、これ、土ん中からぐわーって出てくんねん。でな、くちからマグマふくねん」
「マグマ？　口から？　それはすごいな」
「せやねん、びゅーってなってな、つよいねん」
　小萩のズニャと並んで、ちかのモグラッガイもまた、周囲に展示されているニャンプラたちと比べますと、かなりの異彩を放っているのは確かです。けれど洋二は、じーっ……まじまじと見つめて、真剣な表情。
「なるほど、これがニャンプラの自由度、それに奥深さというわけだね。勉強になったよ」
　せやろ？　と、本日がニャンプラ初挑戦なちかですけれど、得意げ自信タップリ！　小萩おねーちゃんとともに、まるで歴戦のニャンプラビルダーのような貫禄を見せつけて、実に満足そうでありました。