【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　外の日が傾き、夕闇が迫っていることが屋内からもわかる。試合を前にして、花風冴来は青薔薇の指輪にそっと口づけをした。
「みゆきと小萩が、今日を楽しめますように―――」
　二人のチームメイトに、ささやかな祈りを捧げる。きっと、楽しい試合になるだろう。
「冴来さん、行きましょう」
　祈りを終えた冴来に、本条小萩が声をかけた。その隣では、北原みゆきが促すように手を差し伸べている。
「うん、楽しんでいこうね」
　冴来が二人に答えると、みゆきがおもむろに言った。
「なんだかうまく行きそうな気がするんだ。このチームができたのは偶然ではなく必然、みたいな気がして……。優勝目指したいな、なんて」
　試合場所に向かう三人の首には、お揃いのチャームが光っている。頭の部分をハート型にデザインした、鍵の形のチャームだ。チーム名の「ハートキー」にちなんでいる。三人とも、名前に“は”と“き”の文字が入っていることから、小萩の発案でついた名前だった。

「ふふっ。英国人でも和歌は好きだし、負けないよ～」
　レイ・ブライトンは屈託なく笑った。本日最後の第11試合でハートキーチームが対戦するのは、活字を愛する男子による「本の虫」チームだ。
　両チームが向かい合って一礼し、まず札を配置する。
「文字がたくさん並んどるー。かるたっていいですねぇ」
　倉前七瀬はそう言って、嬉しそうに場の札を眺めている。
「さあ、たくさん取って勝つわよ！」
　多岐川玲栖は、社会人として一般枠で参加した。この中では、レイが戦法や連携について策を練っている。暗記時間は、特に相手陣の配置の記憶に時間を割いた。あわよくば内容や頭文字などから、札の並べ方の法則性を見極められたらいい。

　対するハートキーチームは、小萩が中央に座り、冴来とみゆきが両脇を固めている。両脇二人がしっかり札を記憶して広い範囲をカバーする。残りは、小萩が勘を生かして拾っていく作戦だ。
「小萩には真ん中がふさわしいような気がしますし！ふふー」
　自分は胸が大きいから、前かがみになればセクシーかも、などと思ったりしている。
「百人一首、みんなで覚えてきたから大丈夫なはずだよ」
　みゆきが、仲間を鼓舞するように言った。百人一首は、始めの五文字を聞けば大半の歌は判別できる。始め五文字が被っている、所謂六字決まり以外を優先して覚えてきた。
　冴来は勝負というよりは、和歌への理解を深め、楽しむことを大事にしている。
「和歌は心で楽しむものよ」
　歌を味わいながらも、札の場所の記憶は正確だ。