【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　難波津に　咲くやこの花　冬ごもり　今を春べと　咲くやこの花

　朗々と響く読み上げの声が、武道場の空気を張り詰めさせた。かるた大会の最終試合が静かに幕を開ける。

　しのぶれど　色に出でにけり　わが恋は　ものや思ふと　人の問うまで

　札はハートキーチームの側の陣地にある。玲栖と小萩が真っ先に反応したが、間一髪玲栖の右手の方が先に滑り込んだ。
「恋愛の歌が得意なのよ！」
　玲栖が自信満々に言う。本の虫チームの戦法は、相手陣を積極的に取っていく「攻めがるた」だ。相手に送る札は、仲間が狙いたい札を事前に聞いておいたレイが選ぶ。
「決まり字が絞られた札も、送り札の候補だね」
　レイの記憶力が活かされているのは、札の配置ばかりではない。既に読まれた札と場に残っている札も覚えているので、決まり字がどんどん短くなっていくのも把握できるのだ。

　忘らるる　身をば思はず　ちかひてし　人の命の　惜しくもあるかな

　続いては、冴来が正確性を生かして一直線に自陣の札を押さえる。七瀬も手を伸ばしたが、届かなかった。
　冴来の狙いは、切ない恋の歌が中心だ。愛の誓いを破られても相手の身を心配する健気な気持ちとも、誓を破った相手への皮肉とも取れる歌だが……
「一体どちらかしら。それとも両方かしら―――」

　取れなかった七瀬の方は、少し残念そうな顔をしている。
「今のは取りたかったんやけどねぇ」
「どうしてなの？」
　玲栖に聞かれて、七瀬は取り札を見ながら答える。
「字余り、ということはつまり文字が多いんです。ほら、取り札に書かれている文字が詰まってるでしょう」
　確かに、いくつかの歌は下の句が字余りなので、取り札に書かれている文字数も多くなる。
「この他にも、字余りしとる札はジーッと見てしまいそうです……」
　その言葉通り、下の句の読まれている間、七瀬は文字の多い札ばかりを飽かず眺めている。

　今来むと　言ひしばかりに　長月の　有明の月を　待ち出でつるかな

　偶然にも、次の歌も字余りであった。七瀬は今まで見ていた札を、反射的に押さえた。
「はーい、ではこっちは僕がいただきますねぇ」
　張り詰めた場の雰囲気に潰されることなく、七瀬はマイペースに振る舞っている。それが相手のペースを崩すことにもつながるはずだ。