【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　両軍ともにマイペースに札を減らしていった結果、終盤まで互角の戦いが続いた。

　ひさかたの　光のどけき　春の日に　しづ心なく　花の散るらむ

　五月が勢いよく、敵陣上段の札を払った。
「言葉の響きと、わびさびの雰囲気がいいなと思いまして。考えてみると、私は静かな空気を感じる歌が好きみたいですね」
　そう言いながら、五月は相手陣に送る札を選ぶ。
「お手つきの可能性がある札は、敵陣に行っていただきましょう」

　淡路島　通ふ千鳥の　なく声に　幾夜寝覚めぬ　須磨の関守

　美雨の脳裏に映像が閃いた。
（あれだ！あの宇宙人のやつ！）
　美雨は歌の実際の意味とは別に、独特の映像を思い浮かべながら覚えている。その映像は、SFもファンタジーもごちゃまぜのかなり不思議なセンスだ。この場合は、夜の淡路島の上空に千鳥の代わりにUFOが飛び交っている、という感じだろうか。故に、恋の歌より鮮烈な印象の情景の歌のほうが得意である。
　美雨の脳内をあずかり知らぬ周囲の目には、ずば抜けた集中力で異様な反応の速さを示しているように見える。
　あの札は、自分の正面、相手陣の下段にあった。手を動かした瞬間に、時間が鈍化したような感覚が訪れる。向かいに座る五月が、急いで守ろうと手を回すのが見える。
（この感覚は……そうだ、中学最後のチョーク投げ大会の最終決戦……先生と対峙したあの時と同じ……！）
　回転がかかって迫ってくるチョーク。そのままぶつければ弾かれる。ならば逆回転をかけてぶつける！
　一刹那の間の判断によって、美雨は札を取ろうとする相手の手の先をギリギリで避け、這うように逆から回り込んだ。
　弾かれた札が、真横に鋭く飛んだ。
「―――赤禿の取り札だ」
　審判役の永田先生が、静かに「真紅の～」チーム側に手を挙げた。

　真魚は、半分以上減った両チームの札を今一度確認した。相手陣右端に、『わたのはら　八十島かけて　こぎ出でぬと　人には告げよ　あまの釣り舟』の札。対角線上の自陣左端に、『わたのはら　こぎ出でて見れば　ひさかたの　雲居にまがふ　沖つ白波』の札がある。いわゆる六字決まりの歌が、離れて置いてあるのだ。このひと組について、真魚には秘策があった。

　わたのはら―――

　真魚は反射的に敵陣に手を伸ばす。しかし、六字目まで聞いていないのでまだ取らない。札には触れず、かつ相手に取られないように右手だけで札を囲う技―――囲い手を使ったのだ。素人が付け焼刃で使いこなせるとは思わない。六字決まりのこのひと組だけに意識を絞っておいたのだ。
「それが狙いか！」
　真魚の動きに目をつけている信彦も、負けじと手を伸ばす。あわよくば、札を囲った指の隙間から横取りだ。ターゲットと動きを合わせるこの作戦、手と手が触れ合うハプニングも期待できるよね、という目論見も実はある。
「健全なる男子高校生だから、仕方ないよねっ」
　一枚の札をめぐり、真魚と信彦の息詰まる攻防が始まる―――