【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　両チームの選手が一礼し、いよいよ第10試合が始まる。
　札を並べ終えると、五月は自陣・敵陣含め、自分の手の届く範囲にある取り札を確認し始めた。
「下の句を知っていても知らなくても、札を見つけられなければ一緒ですから」
　手の届くところをしっかり覚え、届かない範囲は見方を信じて任せる。その間は、自分の守備範囲の札を再確認して覚えなおそう。
「出るからには勝ちたいアルねー！」
　幼馴染同士で一緒に戦えるので、華菜子は張り切っている。
「蝉丸とか猿丸大夫とか、面白い名前の人のを覚えたアル！あと、絵札がお坊さんっぽい人の歌も覚えようと頑張ったアルよ」
　華菜子には「百人一首＝坊主めくり」のイメージが強いかららしい。場の札百枚全部をぼえるのはとても無理なので、せめて自分の目の前の札だけでも覚えようとする。足が痺れないように適度に足は崩し、自分の正面とその周辺あたりを確認した。

　一方の「真紅の～」チーム。小枝は、とにかく目の前の札をじーっと見つめている。
「私、ちっちゃいから手も短いもん」
　届くところの札をしっかり見て、「えっと、上の句はなんだっけ？」と考える。思い出したら、場所を覚える。
「読まれたら、すぐに取れるようにねぇ。あ、ねー美雨ちゃん、それ好きなやつだから、近くに置いてもいい？」
　どんなときでも、小枝はのんびりマイペースを崩さない。
「あ、この札覚えてないやつ。相手チームにあげよー」

　並べた札を暗記する時間もすぐに終わり、読み上げが始まる。

　難波津に　咲くやこの花　冬ごもり　今を春べと　咲くやこの花

　美雨は、読み手の声にじっと意識を集中させている。彼女の百人一首の覚え方は独特で、暗記ではなく歌の本質的な鑑賞ありきで頭に入っている。

　ちはやぶる　神代もきかず　竜田川　からくれなゐに　水くくるとは

　読み上げを聞いた瞬間、絢爛たる情景が脳裏にフラッシュバックする。ろっこん発動時に幻視するものと同じ、鮮烈な赤色が浮かんだ。
　閃いた映像を頼りに、体が直感的に動く。目にも止まらない速さで、右手が敵陣右側の札を払った。この歌は特に、自分にとって特別な印象をもたらす歌なのだ。

　かささぎの　渡せる橋に　おく霜の　白きを見れば　夜ぞ更けにける

　今度は、五月の反応が早かった。小気味よい音を立てて、自陣手前の札を弾き飛ばす。
「目の前に、ふっと清冽な風景が浮かんでくるのがいいんです」
　気に入っている札を取れるようにすることが、大会の個人的な目標だ。