【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　契りきな　かたみに袖を　しぼりつつ　末の松山　波こさじとは

　真魚は相手陣に必死に手を伸ばし、目指す札を抑える。
「さすがまおちゃん！やったやった！」
華菜子も一緒に喜んでいる。
真魚の戦法は、とにかく敵陣を積極的に攻める「攻めがるた」だ。敵陣の札を取ると、相手に好きな札を送れるので、取りやすい札をどんどん渡すことで流れを良くできる。
「少林寺拳法も反射神経が大事！うまく活かせたらいいのだけど」
　チームメイトはスピードの点ではやや不安なので、自分だけでもテンポを良くしたい。

　信彦は、真剣な面持ちで前方を見つめている。その視線の先は、札ではなく相手選手の真魚だ。ターゲットは、試合の序盤で様子を見て、最も動き出しの早い選手である。
「何だろ……？」
　真魚の方も、信彦の視線に気付いて怪訝な顔をする。彼の狙いは、相手チームの女子の視線の先を読んで、機先を制することだ。

　田子の浦に　うち出でて見れば　白妙の　富士の高嶺に　雪はふりつつ

　真魚が視線をやった先を読み、一足先に札を見つける。あとは華麗に取るだけだ。
「レディの欲しているものを、先手を打って確保するのが紳士の務めだからね」
　決め角度で札を持ちながら、信彦は嘯く。
「紳士って……でも、してやられたなぁ」
　対策を考えなければ……真魚は首をひねった。

　これやこの　ゆくも帰るも　別れては　知るも知らぬも　逢坂の関

　続いて出たのは蝉丸の歌だった。狙い目の札を、華菜子が勢いよく払う。
「やった！やったアル！」
「よかったですねー、華菜子さん」
　大喜びする華菜子に、五月が微笑んだ。
「はしゃぎすぎると、次のが頭に入らなくなるわよ……」
　気が散漫になりかけている華菜子を心配して、真魚が言った。

　その頃、「真紅の～」チームでは、小枝に異変が起きつつあった。
「ふにゃ……座ってると眠くなるよぉ……読み方もなんか、ゆっくりで……落ち着くし……」
　
　やすらはで　寝なましものを　小夜更けて　かたぶくまでの　月を見しかな

　次の読み上げが始まった瞬間、うとうとした小枝は思わず倒れかけ、場に手を付く。
「……あれ？」
　気づいたら、読まれた札が手の下にあった。
「そんなのアリ……？」
　ぽかんとしている周りをよそに、小枝は札を手に取った。
「えへへー、この人偉いよねぇ。私だったら、絶対待ちくたびれて寝ちゃうもん……」
　その向かいでは、華菜子がきょろきょろ周りを見回していた。
「今、何が読まれたアル？」
「もう取られたわよ！」
　真魚が突っ込む。案の定、華菜子は次の歌が聞こえていなかった。