【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　現状の試合展開は、幼馴染チームが一歩リードしている。
「むぅ……」
　圭花は、目の前に座る楓子の挙動をじっと見つめている。
「細かいところはヤマ張ればいいし……私ならやれる！」
　集中のあまり、親の敵と相まみえたかのような目つきになっている。
「こ、怖い……」
　圭花の視線に気づいた楓子は、少しやりにくそうだ。

　君がため　春の野に出でて　若菜摘む　わが衣手に　雪はふりつつ

（―――六字決まりだ！）
　お手つきが怖いので、手は札の上にかざしながらも、六文字目まで慎重に聞き取ろうとする。しかし―――
「そこよっ！」
　圭花はうろ覚えの歌の知識とともに、楓子が取ろうとした先を見切って札を押さえた。
「やった！」
　札を手に取って喜ぶ圭花だったが、楓子は静かに呼び止める。
「それ、別の札だよ……」
　圭花が押さえた取り札には『わがころもでは　つゆにぬれつつ』とあった。読まれたのは光孝天皇の歌、この札は天智天皇の歌である。
「あ、お手つきだ……」

　このあたりから、流れは幼馴染チームに傾いた。

　なつの夜は　まだ宵ながら　明けぬるを　雲のいづこに　月宿るらむ

　なつが自陣の下段を押さえる。二字決まりだが、取りたい札だった。
「これ、『なつ』って自分の名前を呼ばれてるみたいで好きなんだっ」

　村雨の　露もまだひぬ　まきの葉に　霧立ちのぼる　秋の夕暮れ

　負けじと、衛が力強い払いで相手陣の札を攻め取った。ここで、幼馴染チームの札がなくなる。９枚差での試合終了だった。
「ふふっ……めちゃくちゃ取っちゃったな」
　楓子が得意気に、ギャラリーの方を振り返る。
「やった！俺の幼馴染、すごいでしょ？」
　なつは、一緒に戦った友達のことが心底誇らしいようだった。

　敗れたえんじょいチームだったが、メンバーには爽やかな笑顔が見える。
「負けちゃってちょっぴり悔しいけど、試合はとっても楽しかったわ。二人とも、今日はありがとう」
　恩が、チームメイトにお礼を言った。
「今日は、楽しい思い出はできたかしら？」
　恩に聞かれ、紫と圭花は揃って頷いた。
「最後の年に出場して、本当に良かったわ」
「私も、かるたがこんなに楽しいなんて思わなかったわ！」

「ねぇ、要」
　決着がついたあと、一霞はおもむろに要に話しかけた。
「どうしたの？」
「今日は、誘ってくれてありがと」
　急にお礼を言われて、要は不思議に思って聞いた。
「何かあったの？いきなり改まって」
「いや……」
　一霞は決まり悪そうに視線を逸らしながら、こう続けた。
「なんだか、要には助けてもらってばっかりになっちゃってるわね……」