【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　花の色は　うつりにけりな　いたづらに　わが身世にふる　眺めせしまに

　今度は、なつが鮮やかな払い手を見せた。
「美女が詠んだってだけでテンション上がらない？」
　なつが取ったのは、小野小町の歌だ。自らの容色の衰えを、色あせゆく桜にたとえて詠ったものである。
「俺なら、美しさ衰えてなんかないですよーって言ってあげたいな～」
　相手が千年前の人物でも、なつの人懐こさは変わらない。

「取られちゃったわ……なかなかやるわねぇ」
　恩は、改めて気持ちを入れ直した。

　ながらへば　またこの頃や　しのばれむ　うしと見し世ぞ　今は恋しき

　一番気に入っている歌に反応し、恩は自陣の札を押さえた。
「恋の歌ではないけど……ただ、身にしみちゃうのよね。時が経って、今の苦しい日々もきっと愛おしく思える日が来るのって、きっと素敵なことだと思うから」

　住の江の　岸による波　よるさへや　夢の通ひ路　人目よくらむ

「来たッ」
　衛が敵陣下段の札をまとめて払う。一度取ると決めた札は意地でも取りたい。気持ちを緩めず、残った一字、二字決まりの札を確認した。

　河野一霞は、思わず息を飲んだ。会場に入ったあとは、ぼんやりと周囲を見回し、気になったグループを見つけて観戦していた。初めは、意外と恋の歌が多いんだな、くらいの気分で聞いていた。しかし、いつの間にか試合に引き込まれている自分がいた。
（頑張れ！まだ勝負はついてないから、諦めないで！）
　劣勢な方の選手の姿が、なんだが最近の自分と重なって見える。冬なのに、固く握り締めた手の中は汗をかいていた。音を立ててはいけないので、心の中で応援しているが―――
（なんだか、私自身に向けてる言葉みたい……）
　こうやって苦しい状況に立ったとき、自分はこの選手たちのように、諦めずに立ち向かっていただろうか……？一霞はいつしか自問自答を始めていた。

　横にいる木次要も、試合の様子に心を奪われていた。かるたに詳しくない一霞に解説をしてやりながら見るつもりだったのに、言葉が出なくなっていた。真剣に試合に向き合う選手たちを見て、素直にすごいと感じる。
　かるたを覚えたばかりの頃を思い出す。当時は、一つ一つを覚えていくのが楽しくて、あっという間にマスターしてしまった。三人いる兄はかるたがとても上手だった。今思えば、自分とやるときは少し手加減していたのだろう。
　兄たちはもう皆社会人となってしまい、今は兄妹でやる機会はほとんどないが……
（進学したら、自分もああいう風に大会に参加するんだろうか……？）
　あまりイメージしたことのなかった高校生活を、要は想像してみた。