【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　今はただ　思ひ絶えなむ　とばかりを　ひとづてならで　言ふよしもがな

　札を払う紫の動きは素早く、思いがこもっていた。百人一首を改めて見返した時、一番心に刺さったのがこの歌だったのだ。
　紫は立ち上がり、かなりの勢いで飛んだ札を拾いに行く。

　昨年の夏のこと、一年続いた恋が終わった。恋を絶たれた悲痛な思いを込めたこの歌を見たとき、まだ元彼のことを諦めきれていないことを思い知らされたのだ。
　彼との関係は、本当に淡々としたものだった。淡々と始まった恋は淡々と終わりを迎えて、淡々と思い出になっていくはずだった。でも、実際はそうではなかった。自分が気付いていなかっただけで、恋の炎は心の奥で激しく燃えていた―――このことに気付いて、今日までしばらくの間苦しんでいたのだ。
「……今度こそ、終わりにしましょう」
　紫は誰にも聞こえない声で、そっと呟く。

「仙藤先輩……？」
「紫ちゃん、どうしたの？」
　チームメイトの呼ぶ声に、紫は我に帰った。取った札を眺めながら、少しの間物思いにふけってしまっていたようだ。
「ごめんなさい、何でもないわ」
　紫は札を自分の脇に裏返しに置いて、吹っ切れた表情で試合に戻った。

　百人一首かるたには間違いやすい歌が多いが、幼馴染チームでは楓子がそれにきっちりと対応している。
「スピード重視の札は衛氏に任せた。楓子は、しっかり覚えないといけない五字決まり、六字決まりに集中する」

　わたの原　こぎ出でて見れば　ひさかたの　雲居にまがふ　沖つ白波

「わたの原」で始まる札は、自陣と敵陣に分かれて置いてある。楓子はまず敵陣に手を伸ばしてから、落ち着いて六文字目を聞いた。
「こっちじゃない」
　素早く右手を自陣に戻して守りきる。楓子が堅実な取り方をしている限り、幼馴染チームのお手つきの心配は少なくて済むのだ。

　忘らるる　身をば思はず　ちかひてし　人のいのちの　惜しくもあるかな

　続いて読まれたのは、圭花のよく覚えている札だった。真っ直ぐに相手陣の上段を払う。
「解説をぱらぱらと呼んでみて、一番印象に残ったのがこれよ」
　忘れられる私自身のことはどうなっても構いません。でも、永遠の愛を神に誓ったのに、それを破ったあなたに神罰が下り、あなたが命を失うことは残念です―――男の変心に対し、痛烈な皮肉でチクリと刺している。
「なんだかすかっとするような、女の強かさが心地よい歌よね。こういうのって湿っぽい内容ばかりだと思ってたから、すごく印象的だったわ」
「百人一首の歌は、意外と面白いものが多いものね。桃川さん、予習は万全なのね」
　紫に言われて、圭花は少し言葉を濁した。
「……万全どころか、覚えきれてないんだけどね、百人一首。半分……いや4割9分……。4割と5分なら確実……に近い……ような」
　だが、圭花は消え入りそうな声から一転、自らを奮い立たせるように言った。
「でも大丈夫。覚えてないから無理と決まったわけじゃないわ。」
　圭花は集中して目を凝らした。相手の目や手の動きをよく観察すれば、狙っている場所がなんとなくわかるはずだ。