【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　終盤戦、寝子島高校ミステリ研究会チームは、相手を突き放す策に出た。
「記憶力に自信のあるチームだし、札を移動していくわよ」
　美野梨はさらに集中して、記憶はしっかりと切り替えていく。
「あれ、あの札どこだっけ……？」
　頻繁に札を移動しているお陰で、相手チームにも混乱が見え始めていた。
「手が大きいほうが有利なのかしら？でも、すばるくんにばかり負担はかけられないわ」
　すばるだけでなく、ブリジットも善戦している。3人で一気に決めて、勝利をつかもう―――

　わが庵は　都のたつみ　しかぞ住む　世をうぢ山と　人は言ふなり

　本来は三字決まりの歌だが、すでに「わ」で始まる他の歌は出ている。だから、この局面なら「わ」一字で取れる。百首全ての決まり字を把握している美野梨は、確信を持って相手陣を払った。
　ラストスパートをかけるのに成功したミステリ研究会が、7枚差で非公式新聞部を下したのだった。最後の一枚を決めた美野梨が、チームメイトを振り返って微笑んだ。
「お疲れ様。楽しかったわ」

「猫さんはいないけど、皆頑張ってるから、いい試合になったよ……」
　試合が終わると、観客席の緊張も一気に解ける。真剣に試合を観戦していた恵御納夏朝は、心の中で勝ったチームを祝福した。
「頑張った皆には、後でいいことがあるといいなぁ」

「負けちゃいました……。でも、優勝チームへの取材は忘れませんよ。悔しいですけど、そこはきっちり押さえておかないと」
　悔しがる文に、葵も乗っかる。
「そーそー、取材の方も抜かりなくやらないとねー」
「取材も必要ですが、選手の視点からの記事も書きませんか？ここが難しかったー、ここが楽しかったー、とか！」
　結梨亜が、2人に記事の内容を提案する。
「賛成です！決まり字うんぬんがあるから以外に難しかったですよね！」
「でも、先に相手チームにインタビューしとこうよー」
　試合には負けたが、元気一杯の3人はすぐに取材モードに切り替わっている。非公式新聞部は早速、相手のミステリ研究会を呼び止めてインタビューを始めた。

「それじゃー、チームの強さの秘訣を教えてだよー！」
　葵の質問に、すばるがちょっと冗談めかして答えた。
「お互いを信頼することかな……心配だったことといえば、ブリジットさんは正座しても大丈夫かってことくらいさ」
「あれ、言ってなかったかしら？私は茶道とか日本舞踊やってたから、正座は普通にするのよ―――」
　ブリジットが口を挟む。ミステリ研究会の軽妙なやりとりも、後日非公式新聞部の紙面を飾ることになるのだった。