【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　羽生碧南は、木製の看板を持って武道場近くの道に立っている。校外から来た一般客の案内係だ。この仕事なら、別に自分でなくてもできる気がするが……
「……って、まさか背が高いからランドマーク的に目立って分かりやすい、ってことじゃないよね……？」
　いや、あながちないとは言い切れない。ちょっと凹みそうになりながらも、碧南は笑顔で案内役の仕事を果たす。人の流れが途切れて余裕ができると、そっと武道場の中を覗いて試合の様子を窺った。
　歌が読み上げられる前の静寂と緊張感、そして上の句の何文字かを聞いただけで札を払う選手の反応速度には、碧南も目を奪われる。バスケ部員として、集中力を鍛えるのにはもってこいかな、などと思ったりした。
　そんな矢先、中学生くらいの女の子二人組がうろうろしているのが目に入る。かるた大会の見学者に違いない。
「いけない、仕事に戻らなきゃ！」
　碧南は急いで持ち場に戻った。

「正直高校もかるたも興味ないんだけど……」
　河野一霞がぶつくさ言っているのを尻目に、木次要は寝子高の敷地に入っていった。進学予定の寝子島高校の見学がてら、かるた大会を観戦しに来たのだ。一霞は、要に誘われてやってきた。要の誘いなら、付き合ってあげるのも悪くない、ということだ。
「会場はどこだろう？」
　会場を探してうろついていると、向こうから背の高いお姉さんがやって来た。
「かるた大会の見学ね？会場はこっちよ」
「ありがとうございます！」
　碧南に誘導され、二人は武道場の入口に向かう。
「百人一首って、昔の人が何を思って詠んだのかよく分かんないし、何より覚えられないのよね」
　一霞の方は、あまり観戦に乗り気なわけではないようだ。碧南は不思議に思って聞いた。
「二人とも、百人一首に詳しいわけじゃないの？」
「私は、百人一首は全部暗記してるわ。年の離れた兄たちが遊んでいて、興味を持ったのがきっかけなの」
　要が答えると、一霞も続いた。
「まぁでもあれでしょ、多く札を取ったほうが勝ち、でしょ？知ってる札といえば……『鳴かぬなら　殺してしまえ　ほととぎす』とか……」
　碧南は思わずくす、と笑った。要が一霞に冷ややかな視線を浴びせる。
「……笑われちゃったじゃない」
　要は、一霞がどの程度詳しいかは知らなかった。試験などの様子を見ても、興味のあることにだけ一点集中するタイプなので、好きな歌しか覚えていないのでは……とは予想していた。でも、ここまでとは……
「……何か違ったかしら？ほととぎすの歌もあったような気がしたんだけど……」
　軽口を叩くのも、武道場の入口までだ。集中して試合に臨む選手たちの様子に、一霞は息を飲んだ。一霞は、自分の打ち込んでいる囲碁のことを思い出す。
「私の知る世界に少し似てる、かも」
　