【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　さて、武道場で行われている第５試合の模様は―――

　瀬をはやみ　岩にせかるる　瀧川の　割れても末に　あはむとぞ思ふ

「取った！」
　今度は、ロベルトが自陣の札を思い切り払った。基本的に目の前の札が優先だが、相手陣の札も躊躇なく取りに行く。奢りがかかっているだけに必死だ。
「ふむ、ロベルトも中々のものだな。神嶋の冷静さも頼りになる」
　内藤武諭の言葉に、ロベルトも続く。
「そうそう、頼りにしてるよ、せっちゃん」
「せっちゃん……誰のことだ」
　征一郎が鋭い目でロベルトを睨んだ。
「征一郎の“せ”だけど」
「今すぐやめろ。さもなければ自分も変な名で呼ぶ」
「うん？僕はあだ名歓迎だよ！呼んでみて？」
「……」
　征一郎はロベルトのめんどくさい絡みを無視し、再び試合に集中することにした。
「なんだよーせっちゃん、スルーは寂しいよー」
「そうだぞ、あだ名も悪くないじゃないか」
　武諭もロベルトの肩を持つ。
「それじゃあ内藤は“たけちゃん”かな？」
「ふむ、悪くないな。ならば俺はロベとセイと呼ぶ事にする」
「……二人でやってろ」
　軽妙なやり取りをしつつも、会場が静寂に包まれると3人はまた集中する。
（競技かるた、爺さんも嗜んでいたな……）
　武道を嗜む者として、武諭は姿勢を正し、心を落ち着けて臨んだ。運と直感に頼ってはいるが、剣道で培った集中力は伊達ではない。

　ひさかたの　光のどけき　春の日に　しづ心なく　花の散るらむ

　取りたかった札に反応して、武諭は真っ直ぐ自陣中央に手を出した。ロベルトも同様に手を出すが―――
（ここはチームのためだ）
　ほぼ同時に、札の上に手が重なったが、ロベルトはちらりと相手を見て手を引っ込めた。
（次は譲ってもらっちゃおう）
　武諭も、熱くならずにそっと取った札を重ねて置いた。
「取ったあとは奢ることなく、謙虚に。取られても冷静に、相手を認めて気持ちを新たにする。常に謙虚に。俺が取る札は9枚で良い……」
「それは謙虚とは言わねぇ」
　征一郎が鋭く突っ込むと、武諭が不敵に笑う。
「だが、別に勝ってしまってもいいんだろう？」

「取られたけど切り替えて！無くなった札も意識して次のを取るよ！」
　円はチームメイトを叱咤した。両軍ほぼ互角のまま、半分以上の札が消えている。
　円は相手の陣を見て、６枚～16枚の札を探した。隙あらば、取る！これがモットーだ。

　君がため―――

　冒頭部分を聞いて反応する円。しかし、これは六字目まで聞かないと確定できない六字決まりの札だ。確信できなかったが、円は勘で相手陣を払った。

　―――惜しからざりし　命さへ　長くもがなと　思ひけるかな

　何とか勘があたる。
「よし！次の札もいくよ！」

　難波江の　葦のかりねの　ひとよゆゑ　みをつくしてや　恋わたるべき

　自陣中央に固めてあった札を、海が一気に払う。本来“なにわえ”の四字決まりだが、はじめがよく似ている『難波潟　短き葦の　ふしの間も　逢はでこの世を　過ぐしてよとや』と一緒にしてあるので三字で確定できてしまう。はじめの字を揃えて並べる戦術のおかげで、自陣の札は概ね三字以内で取れるようになっている。
（自分の前に固めた札は絶対に取りたい……）
　その気合通り、海は目の前の札を着実に減らしている。それに加えて、担当でない7枚以上の札も、今のように拾って円を助けられれば、チームの勝利は近づいてくるはずだ。海は神経を集中させ、記憶をさらに研ぎ澄ませた。