無機質ワールドとオカシな戦士｜リアクション

無機質ワールドとオカシな戦士

【チーム『あんドーナッツ』とチョコプレッツェル】

　さて、そうして脱落者が増えていくなかで、いまだに無機質警備隊に見つかっていないオカシ戦士達もいた。
　たとえば、小倉もなかと澪乃澄佳である。
　もなかと澄佳は、ごく普通の無機質で無気力な高校生を装いながら、駅ビルの内部を歩いていた。
「……先輩、人生って何のためにあるんでしょうね」
「……さあ、あたしにもよくわかんないねぇ」
　二人は灰色の地味な服を着て、できるだけどんよりとした表情で、できるだけどんよりとした話題を出し続けた。全てはオカシ戦士と気づかれぬためである。
（……あ、見えたよぉ）
　澄佳はもなかの服の袖をくいと引くと、周囲に気づかれないように視線で、その部屋の方角を指し示した。
（あ、本当だ！　澄佳先輩、ぐっじょぶです！）
（えへへ。もなかちゃんが上手く変装させてくれたおかげだよぉ）
　二人は小声で互いの頑張りを称えあいつつ、こっそりと、だけど、できるだけ速やかにその部屋のドアに取りついた。
　放送室。
　それが二人の最初の目的とする場所だった。迷子の子供とか、落し物のアナウンスをするためにある、例のあの部屋である。
　耳を澄ませば、中には無機質化されていると思しき、数人の職員達の無機質で、無気力な会話が聞こえてくる。
　どうやら、無機質警備隊の隊員も含めて、かなりの人数が中にいるらしい。
（……先輩、数多いみたいですよ。どうします？）
（……うーん。あたしたち、戦闘は専門じゃないからねぇ）
　二人が思案顔をしていた、そのとき。

「革命団だ。相手は一人。だが、かなりの剣の使い手だぞ」

（（え……？））
　
　どうやら同じフロアに彼女達とはまた別の革命団の戦士が現れたようだった。

　　　＊　＊　＊

　御剣刀もまた革命団の一員として、愛用のニョッキー（イチゴ）を振りまわしながら、最上階のリッカルドを目指し、ちょうど放送室のあるフロアに到達していた。
　およそ逃げ隠れといった行動を知らずに真正面から突っ込んで来る彼を、みすみす見逃すほど無機質警備隊も無能ではない。
「相手は子供一人か」
「小癪な。出会え、出会え」
　ばたばたと足音を立てて、右から、左から、そして放送室からもどんどんと警備隊員が飛び出してくる。
　しかし、刀は動じない。
「どけ！　俺の狙いはリッカルドだけだ！　けど、立ち塞がると言うのなら容赦しないぞ！」
　言うが早いか、こちらに銃を向けてくる隊員から狙いをつけて、ばっさばっさと斬りかかる。
（ところで、ニョッキーのイチゴ味ってニャンダムのビームサーベルに似てるよね？）
　迫りくる警備隊の銃撃を身軽な動きで回避し、返す刃でばさりと斬り伏せながら、刀はふとそんなことを考えていた。
（だったら、決め台詞はもうこれしかないよな！）
　にやり、と笑った刀はニョッキーの柄を構え直すと目の前の警備隊の真横を走り抜けながら一太刀のもとに斬り捨てて、叫んだ。

「――俺が、ニャンダムだ！」

「ぐわー」
　と、刀の背後で時代劇の悪役のようにくるくるまわって警備隊が倒れる。
　刀はそんな彼らには目をくれず、ポケットから非常食用のウエハースチョコ『kit-nyanko』を取り出して、ポキッといい音をさせて食べた。
「うん、うまい！」
　戦いの後の一服として食べるウエハースチョコの味はまた格別だった。
「よし、さっさと町長をブッ倒して、お菓子をたらふく食うぞ！」
　刀はぺろりとチョコを平らげると、再び最上階を目指して全力で階段を駆け上がり始めた。