大正浪漫のかほり哉｜リアクション

大正浪漫のかほり哉

『猫爺』ならば猫の事を何でも知っているとあゐは自慢げに言っていた。
　彼――猫屋敷宝は「猫が何を言ってるのかはなんとなく解ってしまうのじゃよ」と面白可笑しく笑った。
「なんとなく、な」
「なんとなく、ですか」
　ふむ、と首を傾いだあゐに宝は小さく笑う。公園の片隅――猫達と戯れながら、「探し猫がいるんだ」と探偵に声を掛けられては無碍にも出来まい。
「とま君かの？　たしかにそういう名の猫がおったな」
「飼い猫が此処に来るのは？」
　そう珍しい事ではないと宝は続けた。猫達は気紛れだ。散歩の為に公園に訪れる猫は少なくない。
「目立つ子ではあったからの。どれ、ちょいと猫達に聞いてみようかね」
　時々、猫達に相談を持ち掛けられる事はあれど、無理には聞かないと言うスタンスをとっていた宝にしては珍しい行動なのだろう。
　周囲で甘えた様な仕草を問っていた猫に「とま君が何処に行ったのか知ってるものは居ないか」と声をかければ猫達は互いに顔を見合わせる。

『どうして？』

　そう言っているのだろうか。宝はうんうんと頷きながら猫達と対話を続けている。
　さっぱり理解できないと首を傾ぐあゐは彼らの様子を静かに見守っている。
「路地裏に居るみたいなんだが……ああ、報酬はにぼしとマタタビ粉をあげようかね」
　強請る猫達に小さく笑みを零し、渡す様子は子供をあやしているかのようで。
　猫集会に人間が入り込むのは余りに無粋だからと案内役の猫にとまの悩みを聞いてやってはくれないかと交渉し、ゆっくりと彼は路地へと向かった。　

「オイラがとまである」
　拗ねた様な雰囲気の猫は眠たげに目を細めている。
　言葉を『話して良い相手を選別』し、それをしっかりと理解した聡い猫は小さく欠伸を噛み殺し宝へと「にゃんだ」と問い掛けた。
「風の便りで聞いてな、悩みがあるのかと思ったんだが」
「ネコもニンゲンもナヤミゴトはたくさんあるはずなのだ」
　ぷい、とそっぽを向いた猫に此処だけの秘密だと宝は持ちかける。
　元より仲良くしてきた『猫爺』だ。悩ましげにしていたとまは「秘密にゃんだぞ」と小さく呟き、猫達と宝へと一つの相談を持ちかけた。

　――どうすれば、長生きできるだろうか？

　宙を踊るシキさんは猫と宝の言葉をじ、と聞いていた。
　シキさんを追いかける望春は「シキさん？」と『彼女』の姿を追いかける。路地で身を寄せ合った『猫爺』と猫の姿を見下ろすシキさんが望春を見つけ、彼の肩へと降りてくる。
「シキさん、とまを見つけたんですか？」
　翼をばさりと広げとまがいるのだと短く鳴いたシキさんは、猫が相談をしているのだと知っているかのように望春の往く手を遮る。
　シキさん、と。首を傾いだ望春は息を潜め、話しが終わるのを待った。
　賢い相棒は猫の気持ちをよく理解しているのだろう。せめて、とまの話しが終わるまで――

「お嬢さん、どうかしたのかね」

　話しが終わったからだろうか、望春の気配を察知していた宝がとまとの会話を促す。
「女学生じゃ、ないです」と困った様に告げた望春は「とまさん？」と猫を見下ろしてその名前を呼んだ。