大正浪漫のかほり哉｜リアクション

大正浪漫のかほり哉

「……ホントはわかってるんだにゃ。カヱ子は寂しくて、オイラがいてやらなくちゃいけないって」
「なら――」
　帰れるね、と言いかけた羽衣の言葉を遮ってとまは「オイラが先に死んだらカヱ子もユウ子も哀しむにゃ」と大きな声を上げた。
　猫は、死に際を悟って居なくなる。とまは不思議な雰囲気を感じさせる猫だ。きっと、まだまだ長く生きる事だろう――しかし、とまは不安だった。
　カヱ子と共に長く過ごしていけるのか、解らない。
　もしも、自分が先に居なくなったら――本当に、心を痛める事だろう。
「……確かに人が動物を飼うというのは簡単なことではありません。
　私も犬を飼っているから解ります。犬が死んじゃったら……そう思うと、本当に辛いです」
　ぽつりぽつりと紡ぐ優芽は宝や鈴を見回して、慎重に言葉を選ぶ。
　聡い猫は、奇妙な所まで考えを巡らせてしまったのだろう。野良猫たちが何らかの事故に巻き込まれ命を落とす事もある。もしかしたら、自分もそうなるかもしれない、と。
　そんな馬鹿な考えを抱いて姿を消したとまに「そんなことないよ」と知らせる様に人形は泣いたのだろう。
　遠く離れた娘の元へと「とまがいなくなった」と文が届き、体がいけなくとも心だけはと大切にした人形が涙を流した。きっと、それもとまは知らない筈なのだ。
「ユウ子さんが大事にしていた人形が泣いてます。おばあさんだって、寂しそうです。
　……貴方がいることで沢山のものをあげられているんですよ。それは誇っていいことですし、一緒に居ていい理由なんです」

　――きっと、何時かは終わりがくるけれど。

　その終わりを受け止めなくてはいけないのだと優芽はぽつりぽつりと言葉を発した。
　ふん、と尻尾を揺らし歩き出すとまは家に戻る事だろう。追い掛ける事もなくその背中を見送って鈴は小さく息を付いた。
「これで、いい……ですよね？」
　ぽつりと漏らした望春はとまの事を思って小さく息を飲む。
　良いんだと告げる様に望春の頬へと擦り寄ったシキさんは小さく鳴いてからゆっくりと空へと飛び立った。

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