大正浪漫のかほり哉｜リアクション

大正浪漫のかほり哉

「やぁ先生、お忙しいのに偶然だね？」
「ああ……ついでにとま君もきたみたいだ」
　へらりと笑った彰尋へと向き直った透は彼の背後に歩み寄る黒猫の姿に肩を竦める。
　不機嫌そうな猫の様子に首を傾ぐ彰尋は「とまさん？」と声を掛けた。
「むむ、ニンゲン。少し話を聞いてはくれまいか」
「いいけど……どうかしたのかい？　下らない事を悩んでるのかい」
　小さく笑みを零す彰尋にそんなところだ、と猫が地面をぺしりと叩く。
　カヱ子より先に居なくなると言うその悩み事を口にしたとまに透は「死期を悟ったわけでもないでしょう」と元気そうなとまに溜め息を漏らす。

「オイラがいなくなったらカヱ子はさらに寂しくなるんだぞ？」
「そうだね。……お嬢さんのお人形だって泣いてるんだよ？　お嬢さんも寂しがってるんじゃないかい？」
　彰尋の言葉に言葉を詰まらせたとまが丸くなる。
　何よりも自分を可愛がってくれたお嬢さんの想いが籠められた人形が泣いている――おばあさんを寂しがらせて、お嬢さんまで哀しませて、と呟く彰尋にとまはどうしたものかと「にゃあ」と誤魔化す様に鳴いた。
「戻りたくないなら俺のお家に来ないかい？　おばあさんだって野良よりも安心するし、僕の寂しさも埋めて貰える」
　どうするかい、と背を撫でた彰尋にとまは首を小さく振って「死ぬ時にゃらいいぞ」と偉そうに告げた。

　甘味処『すずらん』は今日も盛況だ。
　あの後どうなったんですか、と問い掛ける時子へとあゐは「聞くかね？」とにやりと口角を上げた。

　道楽探偵曰く、事件は完全に解決したのだそうだ。
　その後、彰尋と透と共に家へと帰ったとまはカヱ子とよくよく話しあった。
　死と言う絶対的な別れの前に、家出してしまえばそれっきりで哀しむ事もないと思ったと、聡い猫が言い訳を告げれば、カヱ子は泣きながら怒ったのだそう。
　寝太郎達がユウ子の背格好を真似、寂しくないと笑いかけた事でとまは「オイラが馬鹿だったにゃ」と尻尾をへんにゃりと落とした。
　こうして、皆が愛してくれて心配してくれる――それなのに、自分は負担になると思いこむなんて馬鹿らしいと猫は人間の様に笑った。
「また遊びに来るといいにゃ。カヱ子と人形と一緒にいるにゃ」と笑ったとまの話しで締めくくりあゐはくりぃむ餡蜜を注文する。
「それで、あの……人形は？」
「ああ、あの人形はね、お嬢さんのイタズラだったそうだよ」
　悪戯、と呟く時子が首を傾ぐ。
　きっと、彼女は不思議な力を所有していたのだろう。しかし、それは無粋な話しだ。
　小さな子供の様に笑ったあゐは「何、探偵業をしていれば秘密も謎も一つ二つと残しておくべきだよ」と冗談めかして告げた。

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あとがき

担当マスター：日下部あやめ
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大正浪漫のかほり哉、へご参加頂きありがとうございました。
はーとふるにゃんこすとーりー(謎)でした。

少し雰囲気の違う寝子島です。
探索では、様々な趣向を凝らしたものばかりで「あっ」と言わされるものも多くありました。
とま君へのお声掛けも、いろんな側面のものがあり、大変素晴らしかったです。
きっと、これからも長くおばあさんと幸せに過ごす事でしょう。
皆様のおかげです。ありがとうございました！

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