● 一巡目


　今日遊ぶ双六は、寝子島を舞台にした『ねこじま双六』である。
「前に遊んだ『寝子島名所一周すごろく』の新作でしょうか？」
　小萩が以前遊んだのは、寝子島の名所や名物、地元の有名人などが登場するもので、小萩たちは『ねころく』と呼んでいた。よく似ているので、亜種かもしれない。

　順番とコマの色は次の通りに決まった。

　　１番、椎名 あさひ（白）
　　２番、後木 真央（みどり）
　　３番、壬生 由貴奈（金色）
　　４番、来島 アカリ（ピンク）
　　５番、八神 修（黒）
　　６番、戸影 エムア（紫）
　　７番、本条 小萩（水色）
　　８番、恵御納 夏朝（橙色）
　　９番、綾辻 綾花（青）
　　１０番、結梨亜・カールシュテイン（黄色）
　　１１番、猫屋敷 姫（赤）


「じゃ、あさひからだね」
　あさひはサイコロを手の中で転がした。
「あさひ、お家でもボードゲームはよく遊ぶからねぇ、とく大ねこさん目指してがんばるよー」
　えいやっと振る。
　最初の目は、２だ。
「いち、に……青いマス。ってことは……『なんてこった！カード』を引くんだねぇ」
　のっけから不運だが仕方ない。カードを引くと。
「『タンスの角に小指をぶつけた。地味に痛い。1枚失う』だって。でも、いまは『ねこカード』持ってないから何も起こらないんだねぇ」

「よーし、次は真央ちゃん！」
　真央の目は１だった。
「オレンジのマス。ここでは『らっきー！カード』を引くのだ？　よっしゃぁ～！　お猫さまカムカムなのだ」
　引いたカードに、真央の顔はぱあっと明るくなった。
「みみみみて欲しいのだ！　『モテ期がきた。３枚もらう』なのだ！」
「真央にモテ期か」
　修がお父さんみたいに感慨深そうにしている。
「早くも真央ちゃんの時代到来なのだ！」
　引いたねこカードは次の三枚。
　『でぶネコ：ボン太：旧市街のボス猫』
　『ベンガル猫：ベン：飼い主のネーミングセンスに不満有り』
　『白猫：モチ：丸まってると白いお餅みたいなネコ。もちもちしてそう』
「お猫さまが三匹も！　モテ期バンザイなのだ！」

「次はうちだねぇ。ん～ダイス運はあんまり良くないんだよねぇ。すごろくに限らず、テーブルゲームで振るダイスはどーにも……まあ楽しんだもん勝ちだよね」
　由貴奈はコイントスよろしく恰好をつけてサイコロを指で弾く。
　すると出目はなんと６。ダイス運いいじゃん、と思いきや、止まったのは青いマス。
「最初だから何が出ても怖くないよぉ。ん～、『野良猫を追いかけたら道に迷ってしまった。野良猫も見失った……。３枚失う』だって。はい、何も起こらず」
　由貴奈はポーカーフェイスのまま、次のアカリを見遣る。

「よし……」
　アカリも出来るだけ表情を消してサイコロを振った。５だ。
「お。らっきー！　『猫のたまり場を見つけた。猫ボスに土産を渡し、お礼に２枚貰う』」
「猫ボス？　ボン太なのだ？」と真央。
「かもな……ねこカード２枚、と」
　『赤い目の黒猫：お三夜さま：なまずを宥めたネコ。手触り良し。かわいい！』
　『三毛猫：ミエコ：やんちゃ。もれいび（ろっこん：ヘアゴムでしっぽを括られると大きくなる）』
「特別な猫二匹ってかんじだね……」と夏朝。
　お三夜さまは、寝子島神社のご祭神である。その昔、九夜山から火を噴いて暴れていた大きなナマズを三夜かけて鎮めて寝子島を救ったとか。
　一方、ミエコは過去にそのろっこんのせいで２度ほど騒動を起こしたことがある猫だ。この場にも出会ったことがある者が少なからずいる。
「元気かな」「たぶんね」「きっと」「ミエコなら」「さもありなん」
　夏朝や修、真央に綾花、そして姫も、一様に懐かしさで目を細めてしまう。

　次は修だった。
「勝敗は時の運だよ。すごろくは特にな」
　転がったサイコロは１で止まった。
　止まったマスはオレンジ色。
「『旧市街で猫集会に遭遇した！　２枚もらう』か。どんな猫だろう」
　引いたのは、
　『黒い仔猫：こしあん：寝子高校長室で飼っている。かわいい』
　『長毛種黒猫：ふくちゃん：多分猫』
　の２枚。
「黒猫２匹か。俺のコマも黒だから、なんとなく幸先良さそうだな」
「あー、ふくちゃん！」
　真央が瞳を輝かせる。寝子島を撮影しているレンズキャットだというが……？


「ふふ……次は私ですね」
　エムアは薄い唇をにいっと引く。
　出目は６で、由貴奈と同じ。
「『猫にクッキーあげてたら自分の分が無くなった。1枚失う』。そういうことありますよね。まあ、ノーダメージですが」

「さあて、小萩の番ですね。今回は変な罰ゲームはないみたいですね。ハイテクなゲームはちょっとこわいですけど、すごろくならこわくありません！」
　そう言うと、赤い矢絣の袖を捲りあげ、水色のコマを手に取る。
「小萩の瞳と同じ水色です！　赤い着物との色の対比がきれいですね！」
「自分で言うですか」
　くすり笑って姫がツッコむ。応じて小萩、
「そう。それが小萩スタイルですよ」
　と気合一発。サイコロの目は４。
「ああ、なんてこったでした」
　引いたカードは『オネエ言葉のカラスに盗られた！　最悪だ…。３枚失う』。
「残念でした。小萩の元に猫はいなかったのです！」

「僕の番……」と夏朝。
　３を出して、橙色のコマを３つ進める。マスの色もオレンジだ。
「『水族館で綺麗な魚を見た。美味しそう…１枚もらう』……どんな猫だろう」
　引いたのは、縁ある猫だ。
　『白黒猫：アルク：橙色の石がついた首輪も特徴の、白黒半々猫』
「来てくれて……ありがとう」
　夏朝は嬉しそうにカードを抱きしめる。

　次は青のコマの綾花だ。
　１を出してオレンジのマスに止まるとらっきー！カードを引いた。
「『大好きな相手からのプレゼント。２枚貰う』……嬉しいです」
　綾花は想い人を思い浮かべて頬を染める。
　『三毛猫：京士郎さん(仮)：たまに庭に来る野良猫。いつも不敵な笑みを浮かべている』
　『橙白の子猫：？？？：猫帽子の子の傍にいた子猫。守護霊？』
（猫帽子……？）
　綾花はちらりと夏朝を見遣る。そういえば夏朝もよく猫帽子を被っている気がする。

　のこりは二人、結梨亜の番だ。
　元気よく振ったサイコロは、１！
「オレンジだからラッキーですよね！　ええと……『ふらふらと寄った場所からのオーシャンビュー！１枚もらう』。やったぁ！　ねこカードは……テオちゃんず？」
　『テオちゃんず：テオ似の子猫たち。性格はバラバラ。神魂の一種？』

「ふふーよきかなですよ」
　そう言うと、最後の姫は、ではでは、とサイコロを振った。
「３です。らっきー！　です」
　引いたカードは『寝子高の校長室に寄ったら、３匹の子猫が甘えてすりすりしてくれた。３枚もらう』。

「ふふふー。猫たちよ！　猫屋敷の元に集うのです！」
　こうして次の３枚のカードが姫のものになる。
　『背中にオレンジの楕円模様がある猫：コバン：ことわざ『猫に小判』から命名』
　『黒いヒマラヤン似の猫：クロワ（クロワッサン）：人懐っこい。神出鬼没。かわいい！』
　『白黒猫：アルク：人懐っこい。元は魔道帝国ローシルテで飼われてた。
　　今は寝子島で気ままに過ごしてる。かわいい！』

「あれ……アルク２枚目？」
　夏朝が自分のカードと見比べて首を傾げた。よく見ると説明文やポーズがちょっぴり違うみたいだ。
「本当ですね。でも……あのアルクなら、不思議じゃないかもしれませんね」
　綾花も彼との旅を思い出してくすっと微笑む。
　白黒猫アルク。彼は異世界を旅する猫なのだ。

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　一巡順目終了

　あさひ（白）　　：　２マス目　：ねこなし
　真央（みどり）　：　１マス目　：ボン太、ベン、モチ
　由貴奈（金色）　：　６マス目　：ねこなし
　アカリ（ピンク）：　５マス目　：お三夜さま、ミエコ
　修（黒）　　　　：　１マス目　：こしあん、ふくちゃん
　エムア（紫）　　：　６マス目　：ねこなし
　小萩（水色）　　：　４マス目　：ねこなし
　夏朝（橙色）　　：　１マス目　：アルク
　綾花（青）　　　：　１マス目　：京士郎さん(仮)、？？？
　結梨亜（黄色）　：　１マス目　：テオちゃんず
　姫（赤）　　　　：　３マス目　：コバン、クロワ、アルク

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