悠久の時の彼方へ～信州に真田あり｜リアクション

悠久の時の彼方へ～信州に真田あり

「まさか、異世界まで来て傭兵稼業をするとは思わなかったな」
　夜海霧楓はそうつぶやいて、真田家より託された火縄銃を手に取った。城壁に空けられた矢窓から試し撃ちをしつつ、構造を確認するために来たのだ。
　威力はあるが、有効射程距離の短いスナイパーライフル。これが、楓の火縄銃に対する認識だ。
「射撃部だから、腕の見せ所なのです。負傷者の回復の方を優先しますが……」
　椿美咲紀も、武器として火縄銃を借りてきた。楓が銃弾を観察しながら言う。
「鉛玉が重たいBB弾みたいな状態だから、作り直すか」
「え、どういう風に直すんです？」
「楕円状に成形し直して、螺旋状に溝を加える。回転力で風に負けないようにするんだ。できりゃ銃本体にも手を加えたいが……」
　楓は、美咲紀の疑問に答えながら手元の銃身を眺めた。
「そっちは融かして固めなおせばいいわけじゃないから、間に合わんかもな」
「弾を改造して飛距離を出すんですね？」
「ああ。まあ、初速は十分なんで、弾だけでも相手の銃よりはるかに遠くから当てやすくなる」
　楓はそう言うと、最初の試し撃ちのために火縄銃を構えた。

「真田―――一番好きな武将だ！」
　獅子目悠月にとって、真田幸村こと信繁と戦えるのは願ってもないことだった。
「敵兵の戦闘力が増強されているなら、スピード勝負で要所の守りを固める必要があるな……」
　悠月のろっこんを使えば、自分を中心に半径1メートル、直径2メートルの範囲を障壁で守ることができる。だが、それをうかつに使うのは考え物だ。
「この時代だと、俺のろっこんは南蛮の妖術にでも見えるかもしれないし、兵士の士気にも影響するかもしれない。総大将の昌幸にかけあうのも、得策じゃないか？」
　それでも―――要所を把握している程度の地位で、かつ年齢が近く話しが通じやすいであろう信繁なら。
「ふん、後世猛将や知将として称えられる真田の次男が、どこまで考えられるのか。この目と耳で確認できるチャンスだな！」
　悠月は、思いつきをさっそく行動に移すため、哲のもとに向かう。
「築地、真田信繁のところに連れて行け！」
　信繁に自分の能力を売り込みに行くのだ。
「俺のこの力、預けてみよう」

　面前に現れた悠月を、真田信繁は物珍しげに眺めた。
「何でも、南蛮よりも遠く離れたところからきたそうだな……戦時でなければ、話を聞きたいところだが。して、そなたの技とはどのようなものか」
「俺の間合いは約１間（＝約1.8メートル）。この範囲であれば、技を使って敵の攻撃をしばし防いでみせましょう」
「まさか！その上背では腕も届くはずがなかろう」
　信繁も容易には信じようとしない。
「信用を得るため、実演してみせても構いません」
「よかろう。木刀を持てい！」
　木刀を構える信繁は、続く悠月の行動に怪訝な顔をした。彼は、澄みわたった高音で聖歌を歌いだしたのだ。
「からかうつもりか！」
　容赦なく打ちかかった信繁の手に、木刀が跳ね返される感触が伝わった。悠月の身体は、半透明の障壁で守られていたのだ。
「これが俺の技です」
「驚いたことだ……して、そなたの望みは？」
　驚嘆している信繁に向かって、悠月は挑発的とも言える不敵な笑みを浮かべて言った。
「忍びのようにうまく使っていただきたい、真田信繁様」

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