悠久の時の彼方へ～信州に真田あり｜リアクション

悠久の時の彼方へ～信州に真田あり

　小高い丘の上に、小規模の城郭が見える。戸石城はまもなくだ。
　卯木衛はつま先で地面を蹴り、堀を飛び越え、坂を一気に駆け上がった。転がるように城門にやってくると、衛は大声で番兵に告げた。
「上田城から伝令に参った！信之様にお目通り願いたい！」
　仲間が皆、上田城で奮戦している。もうすぐ、反撃の狼煙があがるはずだ。

「獅子目悠月と申したか。その力を使って、我の伴をせよ」
「はっ」
　真田信繁の命を受け、悠月は勢いよく答えた。
　騎乗した信繁が、敵勢に一気に斬り込む。悠月は信繁の背後に走りこみ、その護衛を引き受けた。
　叫喚に満ちた戦場に、突如として澄んだ歌声が響き渡った。悠月は今、ここにいる全ての者に聴けと言わんばかりに、聖歌を響かせていた。
「こやつ……妖術使いか？」
　刀でも槍でも破れない壁に気づき、敵兵はざわめく。
「束になって打ち破れい！」
　信繁を守る悠月を片付けないと、最前線で暴れる信繁に対処できない。周囲の兵は、一気に悠月に襲いかかった。
　硬い障壁が、少しずつ傷ついていく。それに従って、悠月の疲労も増していく。声を張り上げて歌うのが苦しくなってきた。
　でも、年若い信繁が頑張っている限りは、うまく使えと言ったさっきの言葉を嘘にしたくない。
（簡単に、諦めてたまるか！）
　悠月は自身を叱咤するが、まだ敵兵は押し寄せてくる。
「―――一旦退け。息を整えるぞ」
　真田信繁が悠月の方を振り返った。悠月の疲労を慮ったのと同時に、戦場の形勢の微妙な動きを感じ取ったのだ。