天使と悪魔のロマネスク｜リアクション

天使と悪魔のロマネスク

大悪魔『オー・グイン』（１）

　おどろおどろしい空気や険しい環境も、キュルビス・ラムズイヤーにとっては喜ぶべき居心地の良さで、彼女の足取りはるんた、るんたと実に軽い。
「まるでハロウィンみたいデスヨ、キュルビスちょうタノシーデス！」
　確かに、無数の悪魔やら奇怪な魔物やらがそこらを跋扈するこの魔界は、いわば年がら年中ハロウィンのようなもの……ではあるのかもしれない。
　浮かれるまま、キュルビスはぴょいと軽快に飛び跳ね、背中の翼をぱたぱた。舞い上がると、
「……あ！　なんかデッカイのがいるデス。先輩悪魔デスネ、キュルビス挨拶しにいくデス！」
　目に付いた、まるで小山のように巨大な悪魔へと、ふよふよ。キュルビスは無警戒に近づいていく。
「グーテンターク！　キュルビスデスヨー、魔界タノシーデスネ魔界！　キュルビスもゼヒ仲間に……」
「……ああん？」
　背にひらひらとはためくのは、小さな蝙蝠羽。それだけなら可愛らしいものだが、両手には巨大な悪魔の身の丈をも越えようかという、ナイフとフォーク。ブタっ鼻は獲物の匂いを見逃さず、大口にずらりと並んだ牙は、どんなものでも噛み砕いてしまいそうだ。
「うまそーなカボチャだなァ。そのアタマ、オラに食わせろォ」
「……ギャーーーッ！？」
　魔界に住まう大悪魔がひとり、『オー・グイン』との邂逅であった。
　周りには有象無象、無数の小悪魔たちも顔を揃えて、わらわらとこちらへ迫ってくる。
「ひいい、キュルビス食べても美味しくネーデスヨ！　出るデスッ！！」
　半泣きになりながらもろっこんでカボチャを召喚、投げつけると、
「おお、ご馳走してくれンのかァ？」
　相当に食い意地の張っているらしいオー・グインは、飛んできたカボチャへぶっすりフォークを突き立てると、ぱくり。ひと口で飲み込んでしまった。
「むぐ、もぐ。美味いぞォ、もっと食わせろォ」
「わー、わー！？」
　キュルビスは次々にカボチャを投げ込むも、ぶす、ぶすとフォークで突き刺しては、悪魔はそれを口へ運び、むしゃむしゃと噛み砕いていく。
　と、
「……オラァッ！！」
　そんなキュルビスをかばうように走り込み、乱入したのは、曖浜鴻だった。彼の剛腕から繰り出された拳は、巨体の脇腹へとめり込み、たやすく吹っ飛ばす。
「いでェ！！　こっこの野郎ゥ、何しやがる……」
「あんたの相手は俺たちだぜ、悪魔さんよ？」
　ごき、と首を回した鴻の手足には、既にそこらの雑魚悪魔でも相手にしてきたのか、ちょっとした切り傷や出血が見られた。それにより発動したろっこんが、彼の筋力を著しく増大させているようだ。
「でかいやつ　たたかう　たのしいな　たのしいぞ」
　同じようにオー・グインの眼前へ飛び込んだのは、シダ美穂戸。好敵手と認めたらしい、巨体を見上げてにんまりと笑みを浮かべる。
　上空からは、
「……ＪＥＴ！！」
　脚部に出現したスラスターを逆噴射、地を砕きながら着地した、マリナ・Ｍ・マディソン。黒翼を一打ち、
「今の私は、虎に翼……まさに、Flying Tigersデス！（？）　私の空戦テク、悪魔に見せつけてやるデスッ！」
　気合十分。ビビって腰が抜けそうなキュルビスには、何とも頼もしい救い主たちであった。
　とはいえ大悪魔と称されるオー・グインも、先制の一撃にこたえた様子もなく、
「ちいせェのが、ひい、ふう、みい……あんまし食いでが無さそうだけどなァ。まっいいかァ、おやつ感覚でまとめてぜーんぶ、食ってやらァ」
「やっややや、やれるモンならやってみろデスヨ！　これでも食らいやがれデーーースッ！！」
　再び投げつけたキュルビスのカボチャが、本格的な闘いの、開戦の合図となった。