天使と悪魔のロマネスク｜リアクション

天使と悪魔のロマネスク

天界ビーチ『クレセントムーン・サンセット（７）

　りんりん、りりん。りりりりりん。音楽に合わせて歌う鈴の音。
　羽狼となったロシィがそれを頼りに、すんすんすんと砂の中に鼻先を突っ込み、鋭敏な嗅覚を発揮。かちり、と固いものをくわえて引っ張り出すと、
「あっ……！　あったニャーーー！」
「がう、がうー♪」
　りんりん、りりん！　再会を喜ぶように、虹色にきらめく鈴は鳴り、ねこは大喜び。ロシィの首へ、むぎゅっと抱きついた。

「ありがとニャ、見つかってほんとに……ほんとに良かったニャ、嬉しいニャ！　お礼に約束通り、この石はあげるニャ……あれっ？」
　りりん、りりりん。鈴があんまり楽しそうに歌うので、音楽人な彼らのこと。目的を遂げてもなお、すぐにもぴたりと止めてしまうのは、惜しくなってしまったらしい。
「せっかくだもんね！　さあ、即興ライブツアー、天界公演の始まりだよっ！」
　ぶわ！　一気に宙へと飛び上がり、銀月を背に、凛はギターをじゃかじゃかじゃらんとかき鳴らす。
　セレッソ、日和がそこへ、
「ワタシも、楽しくなってきちゃったノ！」
「『歌う鈴』も、一緒に歌ってくれてるね。ああ、こんなのって、とっても幸せだなぁ……♪」
　チェロとヴァイオリン、繊細かつ大らかなクラシックの調べを重ね合わせる。
「ビーチ中に、いえいえ天界中に、私たちの音を響かせてしまいましょー！」
「ええ！　何といってもわたくしたち、天にまします天使さまですもの！」
　結梨亜はトロンボーン、逢莉はハープ。豊潤な音色で即興ライブに色を加えれば、
「いっしょに飛んで、いっしょに演奏して。いっしょに歌って……いっしょに笑って。もう、最高♪　ねっ、豪くん」
「ああ、最高だ！　こうやって飛びながら、ハーモニカ吹いて、天界を探検して……まるで子供の頃、無邪気な俺に戻っちまったみたいだな。ははっ」
　みつびと豪も、ギターとハーモニカで、少しばかり哀愁のメロディーを添えてみせる。
「さあ、ねこさんも、『歌う鈴』も一緒に、歌いましょう♪」
「うんっ、ニャ！」
　ねこを抱き上げて、もふもふとしながら、綾花は軽快な口笛をぴゅうと鳴らす。
　ヴォーカル陣も、なんとも豪華だ……五月は、ろっこんで飛び出した自動販売機で購入した水をこくりとひと口、喉を潤すと、
「せっかくの機会ですからねー。最後まで、楽しく歌ってしまいましょうか。ふっふ！」
「……そうだな。嘆いてばかりいるより、俺も……」
「そうそう！　こんなエンディングなら、切ない曲より楽しい歌がぴったりよね♪」
　少しばかり落ち着いてきた遥斗、すっかりノリノリな碧南とともに、美声を響かせ始めた。
　夏朝は、猫パペットのハルくんをぱくぱく。相変わらずにこにこと楽しそうに、
「にゃーにゃー、にゃおん♪　みゃあみゃあみゃあ♪」
「「「うニャーーー♪」」」
　ねこたちを引き連れて、大合唱！
「……お前、何か老けてないか……？」
「えっ？　いやー、なんか楽しくなってきちまったな！　ほれ、お前も一緒に歌おうぜー♪」
　歌の波に吹き飛ばされるように、ひとまず嘆きの念もどこかへ行ってしまったらしく、ろっこんも解けていつもの姿に戻った蓮太郎。悠月はひとつ、首を傾げながらも。
「まぁ、いいか……ああ、歌うさ。ビーチ中に響き渡らせてやるから、とくと聴け！」

　遠く。緩い風に乗って届く、そんな賑やかなライブの音に、耳をくすぐられながら。
「…………♪」
　夢宮瑠奈は歌う。傍らには、数匹のねこたち……揃ってゆらゆら、メロディーに肩を揺らしながら、静かに。穏やかに。
　石の欠片を浄化することが、寝子島のフツウにも繋がるのなら。瑠奈がこうして、遠巻きにそれを眺めつつ、ねこたちとともに密やかな歌を紡ぐのもまた、この世界のフツウを守ることには違いない。
（だって、あたしは……強くなんてないのだから）
　人にはそれぞれ、負うべき役割があるのだろう。何も大仰な危機に立ち向かうばかりがそれではなく、楽しい世界を楽しいままに、穏やかな世界を穏やかなままに、そのままの形で留めておくこともまた、大事な役割なのだろう。
（この場所を、変わらないままに護るのが、あたしのお仕事）
　瑠奈は、アイドルなのだから。アイドルは歌で、その笑顔で、世界のフツウを守るのだ。
　瑠奈は歌う。永遠に沈み行く夕陽を背に、銀色の月を見上げて、ねこたちと一緒に。
　静かに。穏やかに……。

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