天使と悪魔のロマネスク｜リアクション

天使と悪魔のロマネスク

闘飛行

　伸びてきた鋭利な爪による一撃へ、頬を薄くかすらせながらに、刃引き刀を一閃。御剣刀は叫ぶ。
「囲まれるぞ、走れッ！」
　追いすがるのは、無数の小悪魔たち。一体一体はそう手強い相手では無いものの、何しろ数が多く、ぎらつく牙や爪は油断ならず。
　何より今の刀には、守るべき同行者がいる。
「ミンナVolcano集まってるデスから、トワたちも行くデス！　DASH！」
　ひとりは、こんな状況にあってもマイペースを崩さず、明るい笑顔を絶やさない、トワ・E・ライトフェロゥ。
「あ、あの、えっ？　御剣君、これって何ですか……？　えっえっ？」
　もうひとりは、刀の担任。おっとり気質がたたり、今ひとつ状況が把握できていない、島岡雪乃先生。
「とにかく、今は走ってください！　ライトフェロゥ、先生を頼んだぞ！」
「任せるマス！　ユキノ、Volcanoまで走るデス！」
「って、そっちじゃなーーーい！！」
　雪乃先生の手を引き、思い切り反対方向に駆け出したトワを制して、刀は刃引き刀をひと振り、ふた振り。叩き伏せ、ふっ飛ばして道を開くも、小悪魔たちは後から後から迫り来る。
　がちりと脳裏へ撃鉄を落として加速、目の前の敵へ次々に、流れるように強烈な打撃を叩き込みつつ。刀はふと、思い出す。
（……様々な力を持つ、黙示録。あれって、ひょっとして魔界が関係してたりするんじゃないのか……？　あんなものが地上で作られたというよりは、魔界の産物だと思うほうがよっぽどしっくりくるんだが……）
　根拠のない予想ではあった。できることなら、多少話の通りそうな悪魔にでも確認してみたくはあるものの、周囲に見えるのはひたすらに前進してくるのみの、いかにも下っ端な小悪魔たちのみ……残念ながら、まともな会話は望めそうに無い。
「きゃあ……！？」
「ッ、ち……とにかく今は、先生やライトフェロゥを。寝子島のフツウを、守る！！」
　つんのめって転んでしまった雪乃先生、その背中へ今にも届かんとしている爪へ……加速。地を蹴って踏み込み、刃引き刀を振り抜いて小悪魔の胴を一撃！　吹き飛ばし、岩肌へ激しく叩きつけた。
「痛たた……」
「ユキノ、大丈夫デス？」
　トワが先生の足を確認すると、転んだ拍子にどうやら、くじいてしまったようだ。
「……走れ、ライトフェロゥ。先生は俺が背負う」
「あの、す、すみません……」
　と言って、申し訳なさそうな雪乃先生を、刀は背に乗せて走り出す。どこか好色そうな小悪魔たちが彼女を追いかけ回す要因ともなったらしい、丸みを帯びた柔らかさが背中で潰れる感触は何とも言えず心地よかったものの、今はそれを堪能している余裕もない。
「大丈夫デス、ユキノ！」
　先生は怯えた表情を浮かべてはいるものの、頼もしい刀や、どこまでも明るいトワの笑顔は、不安をいくらか和らげるのに一役買っていたことだろう。
「devil、いっぱいなっても……カエデが絶対、来てくれるから。それまで、escape！　逃げるデス……、わわ！？」

　折しも、そんな彼女の保護者たる夜海霧楓が彼らを見つけたのは、その直後。小悪魔たちがますますその数を増やし、ぐるりと包囲網を敷き始めたところだった。
「ったく。ようやく飛ぶのに慣れてきたと思ったら……トワ。悪魔どもに大人気だな？」
「あ！　カエデー！」
　羽ばたきながら宙へ浮き、見下ろす楓へ、見慣れた金髪の少女が両手を振る。ケガなどは無いようだが……周囲には無数の悪魔たち。恐ろしげに牙を剥き、爪をぎらりと鈍く光らせ襲い来る様は、彼女の目にどう映っているだろう。
　それを思えば、楓の胸にはちりりと、黒いものが渦巻いた。
「……ま、お前にしちゃ良くやったほうだぜ、トワ。先生連れて火山に行って、昼寝でもしてろ。その間に全部終わってる……御剣」
「ああ！」
　とはいえ傍らには、見知った顔。頼もしい彼の姿もある。
「この場は俺が引き受けた。後ろは抑えとく……ふたりを頼んだぜ」
「分かった、任せろ！」
　雪乃先生を背負いながらに、群れそのものを切り裂くように突き進む刀。その後を追いながら、振り返り、こちらへ手を振って見せたトワ。
　彼らを見送ってから、
「よう、お前ら……うちのちび助が、世話になったらしいな？」
　両の手にナイフを一本ずつ、短剣二刀流。どうにかモノにしつつある、翼による飛翔に加えて、悪魔の一体へワイヤーを放ち絡め取り、支点として利用しつつの三次元機動……瞬く間に数体の悪魔たちを斬り伏せ、楓は吠えた。
「手前ら全員、噛み千切ってやる。まとめてかかってきやがれッ！！」

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天使と悪魔のロマネスク

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