天使と悪魔のロマネスク｜リアクション

天使と悪魔のロマネスク

桜の名所『桜源郷』（６）

　今日も今日とて、深倉理紗子に深林真瞭。互いにりさちん、まーちゃんと呼び合うふたりは、いつまでたっても仲の良い親友同士である。
　もちろんヘタレな女医さん、理紗子のこと。天界に連れて来られて、背中にぱたぱた、白い翼など目にした時は、
「ああっ……ここって、天国よね？　私、今度こそ死んじゃったんだわ……！」
　なんてうるうる、涙目であったが。そこは親友、ドライな真瞭の、
「どうせまた例の、モレイビとかシンコンとかのせいでしょ？　それよりりさちん、見て、すっごい桜の花！　一足お先に、お花見といきましょ？」
　そんな言葉には、潤んだ目をぱちくり。
　理紗子も多忙な日々を送ってはいるが、真瞭もまた所属する楽団のゴタゴタが未だ長引いており、近頃は少々お疲れモードであるらしい。そんな彼女が今日は、何はばかることなく明るい笑顔を見せていて……そんなところを目にすれば、
「……そ、そうね。こんな機会だもの、楽しまなきゃ損……よね？」
「そうそう！　ほら、行きましょ？」
　何やら賑やかな一角、不思議な神さまの宴会に顔を出してみると、料理番の女神さまが、アホ毛をぴょこんと揺らして出迎えてくれた。
「あっ、またお客様だわ、いらっしゃい！　美味しいお酒に料理に、何でも食べ放題の飲み放題！　楽しんでいってね♪」
「わお、ラッキー。飲み放題だって、やったわねりさちん！」
「……うん。そうね……楽しまなきゃ」

　そんな風にしてしばし、料理とお酒を堪能。理紗子はすっかりご機嫌になり、真瞭もくつろいでリラックス……と、そんな中。
「うーん。ただ飲み食いしてるばっかりじゃ、もったいないわよね。よしっ、行くわよりさちん！」
「えっ。ま、まーちゃん？　行くってどこへ？」
　ぐいぐいと手を引かれるまま、連れて行かれたのは、宴会場のど真ん中。お酒も回って良い気分、真瞭は上機嫌に周囲へ宣言した。
「はーい、私たちも一曲やりまーす！　私演奏するから、りさちん、歌ってね」
「……ええ！？」
　相談も無く、あまりに唐突なお達しに、理紗子は目を白黒、瞳はぐるぐるぐる。
　とはいえ、実のところ彼女も、良い感じに酔いが回っているようではあり、
「もう、まーちゃんはいつも強引なんだから……」
　なんて言いつつも、これが案外、まんざらでも無いらしい。
　真瞭の楽器は、
「ねえ、そこのねこちゃんたち。ヴァイオリンなんて無いかしら？　さすがに無いわよね……」
「あるニャー、今持ってきてあげるニャ！」
「あるの！？」
　神さまに仕えているというだけあり、有能なねこたちがどこからか、うんしょうんしょと持ってきてくれた。
　準備万端！　わくわくと興味深げな神々の視線を浴びながら、ふたりはこくりとうなずき合って、
「いくわよ、りさちん♪」
「うん、まーちゃん♪」
　楽しい即興演奏会は、神さまたちを大いに沸かせたのみならず。ふたりもこうして思い切り演奏に興じたなら、日頃のストレスもどこかへ、びゅーん！　吹き飛んでしまうような気がした。