天使と悪魔のロマネスク｜リアクション

天使と悪魔のロマネスク

桜の名所『桜源郷』（４）

「レディースエーンド、ジェントルメーン！　アーンド！　ゴーッドッ！！」
　宴の場を盛り上げるのに、志波武道ほどの適役はそうはいまい。どこから取り出したやら、マイクを片手に、彼は大いに声を張る。
「寝子高の歌姫ことアリーセちゃんに、元気いっぱいアクションガールな小麗ちゃんでしたぁ、ハイ拍手ー☆　さあーて続きましては、麗しき女侍！　櫻ちゃんの、華麗な演武をご覧アレ♪　盛大な拍手でお迎えください、ドウゾーッ」
　ぱちぱちぱちぱち！　湧き返る場へ姿を見せた楪櫻の顔には、いささかの戸惑いが見えなくも無い。
（まったく。妙なところへ飛ばされたかと思えば……）
　先頃に晴れて恋人同士となった武道に、こうして仰々しく紹介されて送り出されるのも、何だか気恥ずかしくはあった。
　とはいえ、彼女の得意とする居合いの技には元より、神に捧ぐ奉納演武というものもある。
（……よし。やってみるか）
　見れば、ぱちり！　こちらへ片目をつぶって見せた武道に、こくりとうなずいて。
　意識を集中……手の中には、一振りの日本刀。左手は滑らかな鞘を握り、右手は柄に添え、深く、深く深呼吸。そのうちに、見守る聴衆の視線や息づかい、あたりに咲き誇る桜の威容すらも、思考からは消えていき……やがて。
「ふッ！」
　雑念の一切が消え失せた瞬間、鋭い呼気とともに。一閃！
　鞘走らせて抜き放った刀身は、もちろん真剣だ。ぎらと輝く刃を振るい、その軌跡で円を描くように、ひと振り、ふた振り。落ちてきた桜の花びらが、ぱらりと真っ二つ。歓声が上がったものの、櫻はそれにも気付かないまま、一心に舞い続ける。
　そうしてしばし刀を振るった後に、やがてひと通りの演武を終えると、櫻は流れるような所作で、ぱちりと納刀。神々へと敬意を込め、深く一礼すると、
「……ほう。こら、大したもんだのう」
「うむ、お見事だね」
　圧倒されたようにつぶやいた観客の反応を見るに、神に納めるための演武は、当の神々にも満足してもらえる出来であったようだ。

「ハーイ、櫻ちゃんの奉納演武デシター！　美しき女侍へ、どうぞ盛大な拍手をオネガイいたしマーッス！」
　ますますもって絶好調な武道の口上だが、その言葉通りに湧き上がった拍手には、武道自身もまた、もはや我慢はできなかったようだ。
「さあて盛り上がってまいりマシター、ここでマイクは櫻ちゃんにチェーンジ☆」
「！？　しっ、志波？　私にこんなもの渡されても、困るぞ……！」
「まぁまぁまぁ！　というわけで、俺！　いっきマーーース！！」
　言うが早いか、武道は服の胸元に手をかけ、
「おい、志波？　まさか……」
「羽生えてるけど、関係なぁい！　いざ、括目せよッ！　神☆速☆脱衣ーーーっ！！」
　しゅ、パァ……ン！　弾け飛ぶように、武道の衣服は瞬く間に宙を舞い。彼はまばたきも許さぬほどの一瞬にして、神々へと素肌をさらしていた……どやっ！
　実のところ、彼はこのために、わざわざ服の背中の羽のあたりへ切り込みを入れていたりして、実に準備万端であった。
　櫻は片手で顔を覆い首を振ったものの、見れば神さまたちの反応ときたら、先ほどの彼女の演武にも勝るとも劣らない盛り上がりである。
　賑やかな彼へ苦笑いを浮かべながらも、櫻はマイクへ述べた。
「えー……神速のブドーこと、武道の速脱ぎでした。お粗末さまでした……」
「決まったゼイ☆」