R&R Agency：File02：コピーする女｜リアクション

R&R Agency：File02：コピーする女

● 石原ナナコについての調査・１

「えっ。あなた、華菜子って言うの？」
　シーサイドタウンと旧市街の境目にあたる寝子島中学校のあたりで聞き込みをしていた貴家衿花は、目の前のチャイナドレスの少女の顔をまじまじと見る。
「そうアルけど……それがどうかしたアルか？」
「事件なの。悪いんだけれど、参考人としてご同行をお願いできないかしら」
　ラーメンの配達帰りだった畑中華菜子と、Ｒ＆Ｒエージェント・衿花との間でそんなやりとりがあってから、約１時間後――。

『ハロー、CQ』
「もしもし屋敷野です」
　シーサイドタウン駅前で寝子島調査班のメンバーおよび中刑事と待ち合わせをしていた屋敷野梢は、支給された携帯に掛かってきたグループ通話に合言葉で答える。相手は関内にいる衛だ。
『こっちはトモミの部屋を出たよ。中刑事がそっちに向かったから間もなく着くと思う』
　それから衛はトモミの部屋の様子や、警察も『華菜子』の名を知っていたことを話す。
　関内班はこのあと昼食を挟んだのち、利平と衛はタクシー運転手に聞き込み、能美子とさゆるはトモミが働いていたクラブに行ってみるそうだ。
　了解、と言って通話を切る。
　こちら寝子島班も四人。
　梢に加えて、ミス研のブリジット・アーチャーと神野美野梨。
　それからまだ来ていないが、フツウを守りたいとエージェントに志願した中学生の衿花だ。

　梢とブリジット、美野梨の三人は、午前中のうちに石原ナナコが店長を務めていたアパレルショップ『ＮａＮａ』を訪ねていた。店は駅前の雑居ビルの二階にテナントとして入っていて、店長を失ったために臨時休業を余儀なくされていたが、スタッフは出社して様々な対応に追われているらしく、運よく若い女性スタッフに話を聞くことが出来た。
「ナナコ店長ですかぁ」
　童顔の女性スタッフは間延びした声で言った。
「お金は持ってたんですよね。あの若さでお店を持つくらいですもん。でもねぇ……」と彼女は口を濁す。
「死んだ人をあんまり悪く言いたくないですけどぉ、遅刻はしょっちゅうだし、売り上げが悪いとキレたりするし、あんまり評判は良くなかったです」
「ナナコさんの交友関係や恋愛関係について、知ってる範囲でいいから教えてもらえないかしら？」
　美野梨が尋ねると、女性スタッフは声を顰めて、けれど話したくて仕方なかったという様子でこう言った。
「特定の恋人はいなかったと思うけど、派手な女とヤンキーみたいな男と三人でよくつるんでたみたいですよ。時々お店にも来てました。あと『華菜子』って女」
　梢がぴくっと眉をあげる。
「それってどんな人ですか？」
「いつもつばの大きい帽子を被った人でぇ、美人なんだけどなんかこう、見るたび印象が違うっていうか……そういえば、ネットアイドルだって聞きましたよ」
「ネットアイドル？」
「そうそう。ナナコ店長にどういう人ですかって聞いてみたことがあって、そんなこと言ってました。で、たぶんなんですけどぉ……その華菜子って人、ナナコ店長たちに何か弱みを握られてたんじゃないかと思うんですよねぇ」
「どうしてそう思うんですか？」
「だってぇ。いつも暗い顔して来るんですもん。友だちとかじゃあ絶対ないですよ。で、あたし、見ちゃったんです。その華菜子って人が、ナナコ店長に封筒みたいなのを渡してるとこ。あれってきっとお金ですよぉ。ナナコ店長が殺されちゃったのってアレが原因じゃないのかなあ」
「それ、警察には話しました？」
　梢が尋ねる。
「話してないですぅ。あたし、昨日までサイパンに行ってて、事件のあとはじめてお店に出てきたのでぇ、警察の人と会わなかったんですぅ」