中 義治という県警の刑事が、R&Rエージェンシーの事務所を訪ねてきたのは、いまにも雪が落ちて来そうな灰色をした日のことだった。非公式ながら、捜査に協力してくれないかというのだ。
「これは、非常に不可解な事件なんです」
中刑事は、応接ソファから身を乗り出すようにしてそう言った。
「3日前、横浜の関内で、若い女が殺された事件をご存知ですか?」
知っていた。朝のワイドショーでニュースになっていた。
「被害者は、関内でホステスをしている五藤トモミ、22歳。午前4時ごろ、関内の路地裏で、腹部を滅多刺しにされて倒れているところを通りがかりの人が発見し、通報。病院に搬送されたものの、死後1時間ほど経っていることが確認されました。死因は包丁で腹部を刺されたことによる失血死。凶器は現場に落ちており、柄の部分から石原ナナコという女の指紋が出ました。その石原ナナコは、五藤トモミの高校時代からの友人で、いまはここ寝子島のシーサイドタウンでアパレルショップを営んでいまして。事件の翌朝、ナナコは店に出勤してきませんでした。そこで捜査員はすぐに彼女のマンションに向かったんです」
ところが、と中は指を手を顔の前で組み、むつかしい顔をした。
「ナナコはマンションの自室で首を絞められ死んでいました。凶器となったビニール紐は現場に残されていて、トモミの指紋が検出されました。しかも、死亡推定時刻は、トモミが死んだ日の深夜12時から2時の間。つまり、トモミを殺したナナコは、トモミ殺害時、すでにトモミに殺されていた、という奇妙奇天烈なことになるんです」
「捜査ミスなんじゃないの?」
リンコが言う。だが、中は首を振り、鞄からラベルのないCD-ROMをとり出した。
「じつは、トモミ殺害の様子が、偶然にも近くの防犯カメラに写っておったんです」
再生するとそこには遠目ながらトモミと思われる巻き髪の若い女が映っていた。
画面にショートカットの女が現れる。トモミはその女に手を振る。
「石原ナナコです」と中が言った。
手を振り合うふたり。声こそ聞こえないが、いかにも久しぶり、という風に抱き合う。
が、ナナコは突然トモミの口を塞ぎ、コートの中に隠し持っていた包丁で襲い掛かった。
倒れるトモミ。馬乗りになって何度も刺すナナコ。
トモミがぐったりと動かなくなる。
「……ここからです。目を凝らして見ててください」
ナナコはトモミが死んだと分かったようで、振り上げていた腕を下ろした。
そして、トモミの髪を掴み、それを包丁で切り取ると口に咥えた。
その直後のことだ。
ナナコの姿がみるみる揺らぎ、トモミの姿へと変わったように見えたのだ。
ナナコだった女は、トモミの死体をひと蹴りすると画面の外に消えていった。
「不思議でしょう? ありえないってんで、コレ、証拠品からはじかれちまったんです。ですがアタシはね、『おや』と思ったんです。実はアタシの娘がマタ大に通ってましてね、『もれいび』なんて話を聞いていたもんですから」
――もしや、もれいびによる殺人事件じゃないか、って思ったんですよ。
「もれいびによる? 姿かたちをコピーする能力者ってこと?」
「ま、ありていに言うとそうです。そこで依頼内容なんですが、」
と中は言う。
「犯人を探しちゃもらえませんか。殺されたトモミですがね、あんな風に滅多刺しにするってことは相当の恨みですよ。ということになると顔見知りの犯行の線が濃い。しかし顔を変えられるとあっちゃあ、アタシら普通の刑事にはお手上げです」
中は胡麻塩頭をごしごし擦ると、机に両手をついて頭を下げた。
「『もれいび』なんて上の方には報告できんし、アタシひとりで何が出来るか見当もつかない。困ってたとこ、ここの話を小耳に挟んだってわけです。アタシはね、犯人にこれ以上罪を犯して欲しくないんですわ。なんとかご協力いただけませんかね」
◇
R&R社は中刑事の依頼を受けた。
彼が立ち去ったのち、リンコと梨香は顔を見合わせた。
「これって、さっきの依頼と関係あるわよね」
実は、中が来る数時間前、篠田 アツヒロという青年が、保護を求めてきたのだ。
恋人が殺された、自分も殺されるかもしれない、と言って。
「『華菜子』――あいつが二人を殺したんだ!」
こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
今回はひとつの事件で依頼がふたつです。
みなさんの力で、事件を解決に導いてください。
今回の依頼
依頼ファイル名:コピーする女
依頼人1: 中 義治(県警の刑事)
依頼内容:
五藤トモミが横浜の関内で、
石原ナナコが寝子島のシーサイドタウンにあるマンションの自室で、
相次いで殺害された。
トモミ殺害時の様子は映像に残っていたのだが、
あまりに不可思議すぎて捜査本部では無視されてしまったため、
独断で非公式に、R&Rに捜査の協力を求めてきた。
依頼人2: 篠田アツヒロ(トモミと同棲中の男)
依頼内容:
五藤トモミと石原ナナコとは知人関係。
自分が殺されると訴えているが「金は払うから黙って守れ」と一方的で要領を得ない。
都内のホテルを用意し、かくまってやることに。
<補足情報>
トモミとナナコは木天蓼市の某私立高校出身の同級生。
アツヒロとトモミは同棲中で、アツヒロはいわゆるヒモだったらしい。
トモミ、ナナコ、アツヒロは三人でよくつるんでおり、あまり素行が良くなかったようだ。
犯人は「姿かたちをコピーする能力」を持ったもれいびだと思われる。
<事件に関係する人物>
五藤 トモミ:連続殺人事件の被害者
22歳、ホステス。関内でナナコ(?)に殺された。
石原 ナナコ:連続殺人事件の被害者
22歳、アパレルショップ店長。
トモミが殺害された翌日、寝子島のシーサイドタウンにあるマンションの自室で発見された。
篠田 アツヒロ:23歳、無職。トモミと同棲中。
殺されると訴えている。
金髪でチャラい雰囲気。言動がいちいち攻撃的で、依頼しておきながら協力する姿勢が見えない。
現在、R&Rが手配した都内のとあるホテルにかくまわれている。
『華菜子』:事件の直前、ナナコが営むアパレルショップ『NaNa』や、
トモミが働く関内のクラブによく来ていたという謎の女。
中 敬治:県警の刑事。胡麻塩頭の52歳。
娘がマタ大に通っており、もれいびの存在を知っている。
アクションについて
今回の目的は2つです。
1.犯人を見つける
2.篠田アツヒロを守る
1.立場を書いてください
R&Rのエージェントの方 → R&R
そのほかの方 → ○○屋の店主として など
2.次の選択肢【1】~【3】のうち一つ選んで冒頭に書き、
続けて自由にアクションを書いてください。
【1】寝子島で調査する
・シーサイドタウンのマンションで、石原 ナナコの部屋を調べる ※中刑事が付き添います
・ナナコの店・アパレルショップ『NaNa』に聞き込みに行く
【2】寝子島外で調査する
・関内で、五藤 トモミの殺害現場付近で調査
・トモミの部屋を調べる など ※中刑事が付き添います
【3】都内のホテルの一室、篠田アツヒロの隠れ場所へ
・アツヒロを守る
・アツヒロから話を聞く など ※リンコが付き添います
【4】R&R事務所で待機
・『華菜子』について調べる
・連絡係 など ※梨香が事務所に待機しています
持ち物は、そのキャラクターが手に入りそうなものであればとくに制限しません。
エージェントになる方は、多少高価なもの(車など)でも、R&R Agency社で準備できる場合もあります。
その他の登場NPC
坂内 梨香:R&R Agencyの実質ボス。
リンコ・ヘミングウェイ:R&R Agencyの表向きの社長。裏方が得意で、あまり現場には出ない。
R&R Agencyについて
R&R Agencyは、リンコ・ヘミングウェイと坂内 梨香が立ち上げた会社です。
事業内容は、オカルト事件の調査や解決。
依頼人の依頼に応じて、世界中どこにでもエージェントを派遣します。
フツウじゃないことに慣れた寝子島の人々こそ、こういう仕事に向いている、と
寝子島はシーサイドタウンの雑居ビルの一室に事務所を置くことにしました。
みなさんは、スカウトされたり噂を聞きつけたりして、基本的にはR&R Agencyと契約し、
R&R Agency社のエージェントとして事件や調査に取り組みます。
能力さえあれば、性別・年齢・種族は不問。
契約は1事件ごと。
報酬は前金+成功報酬で、成功すればそれなりの金額が貰えます。
必要経費は会社持ち。
エージェントになると今後は仕事の連絡が行ったり、事務所で仕事をみつけたりできます。
※以前のシナリオで関わりのあった方はリンコから直接連絡があったことにしてくださって構いません。
また、自分の仕事を持っている方などは、
エージェント契約をせず、協力者としてシナリオに参加することもできます。
それではご参加お待ちしております!