子供達のイタズラ｜リアクション

子供達のイタズラ

　少年は街中でイタズラの相手を探していた。眼鏡の奥の眼を忙しなく動かしている。
　前方から怪しげな鼻歌が聞こえてきた。少年が目を向けると後ろ姿の女の子がいた。桃色のニット帽で頭をすっぽりと覆っている。暖色系のドレスは大人びて見えるものの、かなり背は低い。スキップをするような歩き方が幼さを強調した。
　少年は足早に近づいて声を掛けた。
「そこのお嬢さん、少し話をしてもいいですか」
「トワのこと、あるマス？」
　片言の日本語でトワ・E・ライトフェロゥが振り返る。ニット帽から食み出た前髪は乾草のような金色。湖面を思わせる青い瞳をくりくりと動かす。
　その容姿に少年は言い澱む。トワは無邪気な様子で迫ってきた。
「お話は、なにデス？　fantasy storyデスか！　トワ、だいこうぶつヨ！」
「その、本の読み聞かせではなくて、この単語カードで少し話がしたくて」
　少年は手に持っていた単語カードをトワに見せた。青い瞳が急に輝き出す。
「それ、知ってるヨ！　だんごカードにwordあるマス！　Answerネ！」
「たぶん、その通りだと思うけど、トワだよね、名前。少し無理があるかな」
「無理ナイ！　できるマス！」
　トワは薄目になった。何かを考えている。少年は黙って見ていた。
「……アー、stationネ。ウー、high schoolヨ。englishも、だんごカードにあるマス！」
「それって英単語のカードだよね。僕のはそれとは違うんだけど」
　申し訳なさそうな顔で少年は単語カードを渡した。受け取ったトワは捲る度に大袈裟に仰け反った。
「オー、これ、かんじ、かんじヨ。なんてコト、シテくれやがってマスか」
「いや、最初から漢字について話したかった訳で」
　歯切れが悪い。少年は苦笑に近い表情で落ち着きを欠いた。見ていたトワはパンと両手を合わせた。
「見たコト、あるヨ。他のクラス。デショ、デスます？」
「そう言われれば僕も、トワを遠目だけど、見たことがあるかもしれない」
「やっぱり、そうネ！　あの子たちは？　大きい、アンド、小さい子ネ」
　トワは大きな身振りで二人のことを聞いた。少年は理解したように頷いた。
「ゲンタとミチカも、たぶんだけど、近くにいると思うよ」
「いるのネ！　トワ、二人と話したいヨ。いっぱいネ！」
「皆も喜ぶと思うよ。ゲンタは走っているところをさっき見かけたんだけど」
　少年は踵を上げて辺りを見回す。
「近くにはいないみたい……トワは？」
　いつの間にか、トワの姿が見えなくなっていた。
　人知れず、迷子の能力が発動していたのだった。