子供達のイタズラ｜リアクション

子供達のイタズラ

　寝子島神社の境内。黒いスウェットスーツに身を包んだ御剣刀が木刀を振るう。両断される大気が風切音という短い悲鳴を上げた。
　刀は次々と斬り捨てる。周囲の大気を存分に薙いだ。
　続いて滑るような足捌きで突きを繰り出す。空間を穿ち、尚も連撃を加える。飛び散る己の汗さえも木刀は無慈悲に砕いた。
　全身が溶けるような汗を流した。刀は竹刀袋に木刀を収めて肩に引っ掛ける。疲れが残る身体でランニングに移行した。
　石段を軽快に越えて旧市街の中を走る。歪な路面を物ともしない。道に食み出た自転車に視線を動かすことなく、流れるように躱していく。地形に合わせた動きは流水のように停滞を許さない。
　急に大きな声が聞こえてきた。重なり合って複数を思わせる。刀は右端に鋭い視線を向けた。赤ら顔の数人が陽気に語らっていた。
「ケンカではないな」
　刀は遣り過ごした。
　走る速度が落ちてきた。目は前方の自動販売機を見ている。喉が上下した。
「水分を補給するか」
　刀は迷わずにスポーツドリンクの缶を購入した。目は座るところを探して、すぐに諦めた。その場で開けて豪快に飲み始める。
　そこに大柄な男の子が現れた。極端な内股で刀に近づくと顔を後ろに背けた。
「あなたぁ～ん、ごはんにするぅ？　お風呂にするぅ？　それともぉ、わ・た・し・ぃ～」
　男の子はいきなり振り返った。上唇を舌で覆っていた。下唇を迫り出させて極太の唇を作り出した。
　一目で刀は噴き出した。にわか雨となって男の子の頭上に降り注ぐ。
「わあー、きったねぇ！」
　騒ぐ男の子の前で刀は激しく咳き込んだ。涙目で缶を振ると寂しい音がした。
「そこの小僧！　おまえのせいでほとんど無くなったじゃないか！」
「こっちはびしょ濡れだ！」
　男の子は言い返した。刀の怒りは収まらない。掌を上にして相手に突き出した。
「俺の飲み物を返せ！」
「そんなにいうなら、返してやる！」
　男の子は刀に抱き付いた。顔や手を執拗に擦り付ける。
「や、やめろ、俺が濡れるだろ！」
「返してやったからな！」
　男の子は捨て台詞を吐いて逃げていく。刀は追い掛けることが出来なかった。
「ヘンなお兄ちゃんに襲われるぅ。かわいいボクが狙われるぅ」
　現れた時と同様に内股で遠ざかる。
「……やられた」
　恨みがましい目をした刀は自動販売機で二本目を購入した。

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