授業風景～１年５組の場合～｜リアクション

授業風景～１年５組の場合～

　◆　１４：００～　◆

　問題を解く為に少し引き締まった教室も、再び五十嵐先生が淡々と教科書を読み始めると、もとのように緩んでゆく。

（ラノベの続きでも読もうかな……）
　机の中を探ろうとしてさっきのことを思い出し、黒井静は手を止めた。
　代わりに、もっと目立たない暇つぶしをすることにする。
　メモを取り出してノートに重ねれば、それだけで準備完了。
　静はパーティ構成を考え始めた。
（ソードマンは物理火力担当、ＳＴＲ極。メインがスターブレイク………。とすると、アサシンが状態異常担当で……ＡＧＵかなぁ。スターブレイク当てる為にもマヒと鈍足メイン、っと………あとは……）
　効果的な組み合わせを考えて、静はパーティ構成を練る。
　考え悩んでいるその恰好は、化学の勉強をしているのと見分けがつきにくい。ばれにくい暇つぶしだ。

（ん～、全然わかんない授業を聞いてるのも時間がもったいないなぁ）
　湯浅月子は表を外側にして折りたたんだチラシを机の中から少し出して、それをチラチラ眺めた。
　月子は東京の親元を離れて、寝子島に住む祖父母の家から寝子島高校に通っている。祖母は足が悪いから、買い物は月子が代わりにしている。今日も授業が終わったら、スーパーに寄るつもりだ。
　特売セールを利用して、かしこく買い物したいから、チラシのチェックは必須だ。
（玉子が98円、サイズはＭ、うんこれは絶対に買いだよね）
　月子は化学のノートに、『玉子』とメモする。
（キャベツもひとたま98円。キャベツは何にでも使えるから、安いのは嬉しいなっ、と。牛乳も安いけど、あとどれくらい残ってたかな～。いくら安くても無駄にしたら意味ないもんね）
　『キャベツ』『牛乳(？)』と月子はチラシを見ては、買い物メモを作成してゆく。

（あっ、じゃがいもと玉ねぎが１個10円☆　やった～。そろそろ安売りするんじゃないかと思って、買うのを我慢してて良かった。人参も安いけど……欲しいもの全部入りきるかなあ？）
　今日のチラシには欲しいものが多くて、かつ、嵩張りそうなものが結構ある。通学カバンの中に、エコバッグを折りたたんでしまってあるけれど、そこに入るだろうかと月子は頭の中で入れ方を考える。
（えっと、一番底のとこにキャベツを入れて、その上にじゃがいもと玉ねぎ。横のとこに人参が入るといいんだけど、特売の野菜ってどのくらいの大きさかなぁ）
　月子は無意識に袋に入れる動作をして首を傾げた。

　その様子を見た七海雪乃には、月子が何をしているのかはすぐ分かった。
　いつもクラスメイトを見ているから、月子がよくチラシをチェックしているのも、帰りに買い物に寄ることが多いのも知っている。
　きっとあの動作は買い物したものを詰める仕草。机の中にはチラシがあるし、きっと今日もまた買い物をして帰るのだろう。
　分かっても何も言わず、雪乃はただにこにことそれを見やった。

　稲場舞は月子の不思議に動きに首を傾げ、すぐに机の中のチラシに気付いた。
（授業中に他事をするだなんて、いけませんね）
　そういうことは休み時間にやりなさいと、ビシバシ注意したいところだけれど……と舞は教室を見渡した。
　今ここでそうしたら、授業の雰囲気が壊れてしまう。注意するのは簡単だけれど、そのことが授業の妨げになってしまっては本末転倒だ。
　授業中にスーパーのチラシをチェックするのは良くないことだけれど、とりあえず今のところ、他の生徒の邪魔にはなっていない。
　今は黙っておいて、授業が終わってから注意すれば良いだろうと、舞は心の中の注意リストに月子の名を書き留めておいた。