授業風景～１年５組の場合～｜リアクション

授業風景～１年５組の場合～

　◆　１３：２０～　◆

　昼休みも終わり近くになってきたけれど、５組の教室の喧噪はまだ変わらない。
　ただ、廊下を行き交う生徒の数は少し多くなっている。それぞれの教室に戻ろうとする生徒が増えてきている所為だろう。

　そんな廊下から、御剣刀は５組の教室を覗き込んだ。
　探している相手の姿はすぐに目に付いた。同級生の中にいても、大柄な上に筋肉をまとった尾鎌蛇那伊はすぐに見分けられる。
　刀が軽く手を挙げて合図すると、気付いた蛇那伊は廊下まで出てきた。

「何かあたしに御用かしら？」
「頼みたいことがあるんだけど……」
　そう前置きして、刀は自分の身体の肩、腕、と順に触れながら蛇那伊に話す。
「最近、ろっこんを使っているせいで結構負担をかけているようで、身体の節々が妙に痛むときがあるんだ。出来たらマッサージを頼みたいんだけど、良いかな？」
　確か尾鎌はマッサージが上手かったはずだと思いついて頼みに来たのだと刀が言うと、蛇那伊はそうねぇと首を傾げた。
「身体強化系のろっこんだと、思わぬところで肉体に負担をかけていそうよね。ちょっと触って確認させてもらっても良いかしら？」
「ん、良いよ」
　どうぞ、と刀は腕を差し出した。
　その腕の筋肉の状態をみようと、蛇那伊が軽く押さえる、と。

「痛ててっ……」
　ずきりと腕を走った痛みに、刀は顔をゆがめた。

「結構酷使してしまっているのかな」
「ええ。かなりダメージが蓄積しているようね。今は確認ぐらいしか出来ないけど、後日に本格的にマッサージしてあげるわ」
「頼めるか？　助かるよ」
「いつがいいかしら」
　スマートフォンを取り出すと、蛇那伊は予定を確かめる。
「予定が入ってない日は来週の日曜日と、そのあとの木曜日……早い方が望ましいから、来週の日曜日でいいかしら？」
「来週の日曜日か？　ああ、空いているしお願いするよ。何時に何処へ行けばいいかな？」
　刀は日時と場所を打ち合わせてメモを取った。

「それと……代金のことなんだが……」
「お金は要らないわ。実際にマッサージをするのも、あたしにとって良い勉強になるもの。放課後にもう一度来てくれる？　そのときに１人で出来る応急処置的マッサージを教えてあげる」
　今はもう時間がないから、と言う蛇那伊の言葉にかぶさるように、予鈴が鳴った。

「じゃあまた放課後に」
　刀は慌てて身を返す。
　ここは５組、刀は１組。急いで教室へ戻らないと授業に遅れてしまう。
　刀が廊下を走って戻ろうとした途端、厳しい声がかけられた。
「待ちなさい、廊下を走っては危ないですよ！」
　誰だ？　と刀が声をしたほうを振り返ると、そこにいたのは稲場舞だった。同じ武道系の部活に入っているから、クラスは違っても知っている。
　舞も相手が刀なのに気付いたようだ。
「御剣君、でしたね……どれだけ急いでたとしても、走ったりしたら他の方の迷惑になるでしょう？」
「ああ、うん、そうだな、廊下を走ったり迷惑だよな、俺が悪かったよ」
　刀は口早に、そして適当に返事する。舞に対して刀は少し口うるさい印象こそ持っていたけれど、小柄だから怒っていても怖く感じられない。
「……ちょっと、真面目に聞いてますか？」
　舞は腰に手を当てて、自分よりも20cm以上背の高い刀を見上げてくる。
「はいはい聞いてる聞いてる、じゃあ、授業に遅れるから」
　刀は手を挙げると、舞に怒られないよう限りなく小走りに近い早足で、その場から退散した。
「こ、こら待ちなさい！　私の話はまだ……！」
　舞は反射的に呼び止めたけれど、もう授業が始まってしまう時間だ。刀を遅刻させてしまうのは本意ではない。
　今度会ったときに、廊下を走る危険性をもう一度説いておこうと思いつつ、舞は自分の席へと戻るのだった。

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