守護霊が見える日｜リアクション

守護霊が見える日

　５　女難の相

「な、なんだ？　あんたは……？」
　龍目豪の前には、海賊姿の怪しい男が立っていた。海賊だとすぐに分かったのは、男が有名な海賊映画に出てくる主人公そっくりの格好をしていたからだ。

「俺か？　俺はおまえの守護霊だ」
「守護霊？　俺の？」
　常にふらふらと揺れている男は、揺れる度に近くの何かに当た……らないですり抜けている。幽霊であることは間違いないようだ。豪は、彼と仲良くやっていこうと白い歯を見せる。
「へえ、そいつは頼もしい。探検じゃ何があるかわからねえから、守ってもらえれば助かるぜ♪」
「本当は守護霊なんてつまんねえもんやりたくねえんだけどな。おまえならいろんな場所に行くし少しは退屈しねえだろ」
　守護霊は面白そうにニヤニヤと笑う。どこか相手をナメているような、偉そうとも言える態度だ。
　そんな守護霊の態度を前にしても、豪は嫌な気持ちにはならなかった。信頼できなさそうだが信頼できる――そんな印象を持ったからだ。
「海賊っていうから随分昔の人なんだろうけど、見かけは若いんだな。よろしく頼むぜ」
「ああ、よろしく。そうそう、おまえさぁ……」
「？」
「前から言おうと思ってたんだけど、女難の相が出てるぜ」
「何？　女難の相？」
　何で俺が、と豪は訝しむ。女子と関わることがあるなら悪い気はしないが、女難というのはあまり歓迎できない。というか本当だろうか。今のところ心当たりがない。何せ、探検部の部長としては皆に公平に、と部活でも硬派を貫いてきたのだ。
　そんなことを考えている豪に、守護霊はやはりどこか上から目線でへらへらと言う。
「信じられんのも無理はないな。今までのおまえはカッコつけてもカラ回ってばかりで子供にしかモテなかったものな」
「余計なお世話だ……」
　何となく姿勢が悪くなる。上目に見ると、海賊守護霊は続けて言った。
「だが、ようやく女性に相手にしてもらえる年になったようだ」
「そ、そうなのか……？」
　そういえば最近……と豪は色々と思い出す。最近、彼は女体化したことがあった。女難とは女体化のことかもしれない。
（確かにあれは大変だった……）
　だが、まああれは過ぎたことだ。その時に出会ったみつびには世話になったが……。
（そうだ、今度合コンに行くんだよな）
　クリスマスに冒険を求め、申し込んだのだ。そこでも、女性と出会いがあるかもしれない。
「しかし、調子に乗ってると痛い目にあうぞ？」
「……どういう意味だよ？」
　忠告をするというよりからかうような口調で守護霊は話す。何か、嫌な予感がした。背中が汗でひやりとする。
「何があるってんだ？」
「さあなあ。まあ、せいぜい気をつけるんだな」
　海賊の守護霊は笑いながら豪に背を向けると、人混みの中にまじり、消えていった。
「……女難の相……」
　守護霊がどこへ行くんだと言うのも忘れ、豪はしばし立ち尽くした。
　クリスマスの合コンで再会する相手が、今日、九死に一生を得ていたことを、この時の彼は知らなかった。