暴走世界からこんにちは｜リアクション

暴走世界からこんにちは

【暴力的なまでにゆるい空気】

「……あのおにいさん、大丈夫かねぇ」

　曖浜瑠樹はがっくりとうなだれたまま動かない高橋をやや心配そうな顔で見つめていた。
　瑠樹は、目の前で起きるアレやコレやを、今この瞬間まで、あくまで傍観者として見つめていた。
　彼は運が良いのか、飛んで来るレンチも、疾駆する竜巻も、まるで被害を及ぼされることがなかった。
　それゆえに、なんだか危険な感じなのに、まるで危機感が抱けない。
「にゃんこが喋ったり、おねえさんがおっきくなったり、なんだか今日は凄いものをたくさん見ちゃったねぇ」
　まるでリアリティのない光景に、他人事のように瑠樹は呟く。
　というか、やはり

「――これは夢なのかねぇ」
　
『だから、夢じゃねぇっつってんだろ！』

　呟いたそばから頭の中に響く声で突っ込んでくる灰色のにゃんこ。
　それに瑠樹はますますこれは夢ではないかという疑惑を強めた。
「ラピちゃんはどう思うかえ？」
『だから、聞けよ！』
　思わず大好きなぬいぐるみのラピちゃんにそう訊いた瑠樹に、ついにテオがキレた。
「ああ、怒ったにゃんこもかわいいねぇ」
　と、そんなテオの様子を見て、瑠樹は和んだ。
　刹那、彼のろっこん――《ゆるゆる和みと恩恵の輪》が発動。

「くっ……。なにかしら、これは……。和む――というより、なんだかすべてがどうでもよくなってくるわ……」
「あ、ホントだ。なんだこれ……。もうフツウとかどうでもよくなってきたっていうか……」
「……う、う～ん？　な、なんだか私も眠たくなってきちゃったよ？　こたつ、こたつないかなぁ……」

　暴走した《ゆるゆる和みと恩恵の輪》によって、もう何もかもがどうでもなくなってくる尾鎌蛇那伊、近石簾、雨寺凛の三人。

『くっ……。この面倒なときに妙なろっこんをッ……ああ、駄目だ、俺もなんだか何もかもがどうでもよく……』

「……ろっこん？　そういえば、オレがぬいぐるみとかを可愛いなぁって思うと、よくこんな感じになるような気がするよぉ？」

　瑠樹はここにきて、ようやく自分のろっこんの存在に気づき始めた。

『……そ、そうだ。それがてめーの『ろっこん』だ。てめーはある神の持つエネルギー――神魂の力を得て、「もれいび」になった……。そして……もれいびはフツウを守るために……ああ、もう駄目だ……。寝る』

　そして、ついにテオも暴走した《ゆるゆる和みと恩恵の輪》の誘惑に負けて眠ってしまった。

「……も、れいび？」

　瑠樹はぽつりと呟く。
　まだ断片的な知識しか与えられていない瑠樹には、フツウがどうとか、神様がどうとか、詳しいことはよくわからなかった。
　ただ、この目の前の猫や、ほかの人達が必死で何かを守ろうとしていたことはわかった気がした。
「フツウを、守る……。オ、オレにもできるかなぁ……？」
　ぽつり、と眠ってしまったテオに瑠樹は尋ねる。
　しかし、眠り猫から答えは返って来ない。
　そのかわりに。

「……できますよ」

「ふぇ？」

　いつのまにかすぐ後ろに立っていた鼎八千穂から投げかけられた唐突な言葉に、瑠樹は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

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