それでは追試を始めます　～それぞれの喜怒哀楽～｜リアクション

それでは追試を始めます　～それぞれの喜怒哀楽～

●後木真央の追試を始めます

「このままでは理学療法士どころか進級がヤバいのだ～！」

　二学期の期末テストで１００点と０点しかないという極端すぎる点数を取った真央は、追試の勉強を徹夜で行い今日という日を迎えていた。理学療法士になるには大学、短期大学、専門学校と手段は色々あるけれど、まずは進級できなくては話にならない。
　軽く充血した目は半分据わっているし、隈もできているけれど構ってはいられないのだ、夢の為に！　そんな状態でフラフラしながら席に付くと、真央はキョロキョロと辺りを見渡した。

「おぉお、明里ちゃんにタルトちゃん、刀ちゃんもいたのだ心強いのだ～……って違うのだこれで安心しちゃ駄目なのだ真央ちゃんはコレで一発逆転補修抜けを目指すのだ～！」

　赤点仲間に前回も一緒だった顔を見つけて真央の顔に生気が差す。けれどこの追試でも赤点を取ってしまったら、冬休みは補習、または課題に追われることになるのだと気合を入れ直す。
　そして配られた英語・数学・美術のテストを開始の合図と共に捲るのだった。
　部屋に響くのはカリカリという、問題を解いていく鉛筆の音。それから、ピチュピチュという鳥の囀り……鳥の囀り？？　頭にクエスチョンマークを浮かべた真央は、鳥の鳴声を探して頭を上げる。
　そして見てしまったのだ、追試の監督役である五十嵐尚輝のぼさっとした頭から小鳥が顔を出しているのを。

「な、なんであんなに頭の上が騒がしくて尚輝ちゃんセンセは通常運転なのだ？　面白すぎなのだ、ぶふぅっ」

　尚輝のろっこんである『バードサンクチュアリ』が発動しているにも関わらず、尚輝は科学の本に没頭している。監督役としてそれでいいのだろうか？　という疑問も頭を掠めたけれど、それよりも一度笑ってしまうとそれは発作のように真央を襲ったのだ。
　わかりやすく言えば、もう何を見てもおかしくて仕方がない、という状態になっていた。
　あんなに前日頑張ったのに、もう頭の中は笑いでいっぱい！　箸が転がってもおかしいとは正にこのこと！

「ぐぁぁ、うっかり指の力が抜けて霊験あらたかな寝子島神社謹製コロコロ鉛筆が床に落ちちまったのだ転がって……転がって……ぷぅ～～くすくす」

　この期に及んでまだ鉛筆に頼っているのかと嘆くことなかれ、寧ろこの状況になってしまった今、頼れるものはこのコロコロ鉛筆だけなのだから……。

「逝くなコロコロ鉛筆、お前に逝かれたら真央ちゃんの英語が壊滅なのだ～……ぷぷぅ」

　それよりも真央の腹筋が壊滅しそうである。
　なんとか英語を終わらせ……諦め？　て、美術のテスト用紙へと向かう。

「やべぇのだ、まさにここに髭を描けと言わんばかりの肖像画なのだ、抵抗できないのだ～…ぶふふっぶふぅ。耐えるのだ後木真央、全部チョビヒゲカツラに改造したら数学の時間が……時間がっ……ぷぷぅ」

　テスト用紙を捲れば、そこには模写用の肖像画があった。他にも三原色だのサービス問題的なのがあったのだが真央の意識は肖像画にしか向かっていない。結果は推して知るべし、である。
　意識を切り替え、数学のテスト用紙を捲る頃には真央の心は凍っていた。彼女の脳内には、もう徹夜で詰め込んだアレコレはほとんど残っていなかったのだから……。

「……心頭滅却で心が凍ったのだ。しかし脳みそも凍ったので皺がつるつるして、さっぱり回答が分からないのだー！？」

　帰り道、温かい肉まんを買って帰ろう……そう心に誓う真央なのであった。

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