それでは追試を始めます　～それぞれの喜怒哀楽～｜リアクション

それでは追試を始めます　～それぞれの喜怒哀楽～

●橘明里の追試を始めます

　期末テストの結果を見て、明里は考えた。今更だけれど、今の自分の立場に見合う自分にならなければいけないと思ったからだ。
　思えば、なぎちーせんぱいに拾ってもらい色々考えた末に猫鳴館に住むようになって、自治会長にまでなってしまったのだ。勉強も頑張ろう、そう思っていたけれど……結果としては堂々の７科目赤点という結果。中にはあと１点あれば、という惜しいものもあったけれど０点があったのも事実。

「全部、がんばります、なの！」

　ふんす、と鼻息も荒く追試の勉強を彼女なりに頑張って挑んだ今日という日。気合十分、いざ追試！

「う、なんでこんなに悲しいお話、なの……うぐ、うう～～」

　国語の問題文を前に、明里はぼろぼろと泣いていた。いたって普通の問題文なのだが、神魂の影響は計り知れない。
　明里は泣きながら、時にハンカチで涙を拭い、鼻水をチーン！　としながら解答を試みる。しかしこれが尋常じゃない感情移入をしたせいで、筆者の心情を述べよ、などという問題の解答には採点の先生も唸らせる程で、合格点をもらえるなんてことは今の明里には知らぬこと。
　大泣きしながら、なんとか国語を終わらせた明里は次のテスト用紙を捲る。

「すうがく、昨日頑張ったのなのよ！」

　数学にはなんとなく自信があった。実際期末試験もあと数点で赤点は免れたのだから、いけるはず。
　明里は自信満々で数式へと目を走らせた。

「６３６……ふ、ぶふっ」

　何故か笑いが出た。数字を見るだけで笑い出してしまうなんて、おかしいにも程があると明里は笑いながら思う。
　けれど、笑えてしまうものは仕方ないし、どうしようもない。
　でも、だけど。

「ここで負けるわけにはいかないの、なの！」

　笑いながらも、明里は懸命に問題を解いていく。その答えが間違っていようとも、解こうとするその意識が彼女の意識改革への第一歩だったのかもしれない。
　唇を噛締めるほどの笑いを堪え、次は英語だ。英語は正直苦手だ、何せ読めないのだ。

「読めないなの！　なのー！！」

　理不尽とも思える怒りが明里を支配する！　選択問題だけ勘を頼りに埋め尽くして、明里はこんなの読んでられないのですとばかりに次のテスト用紙を捲った。
　しかしこれが功を奏したのか、社会の問題には心の余裕もできたようで、何事もなく分かる部分を埋めていく。期末試験の時には埋めれなかった問題も埋めることが出来た。
　次は家庭科だった、これはもう基本中の基本のような問題ばかりだったのだが。

「大根の切り方……大根……煮物が美味しいのなの……」

　ぐきゅるるぅ。
　お腹の音が鳴った。それも割りと盛大に。乙女としてはかなりの非常事態なのだが、今の明里は節約生活真っ只中なので仕方ないといえば仕方ない。それは食欲との戦いだったと、後に明里は語る――。
　美術のテストは、何故か問題の絵が自分に向かって笑ってくるのだ。それは睨めっこの如くで、明里は笑ってしまう。ここまでくると、疲れてしまっているせいか思考が飛んでしまって、解答用紙に何をどう答えたのかはちょっと覚えていない……。
　そして最後の体育。何故か熱血モードに入ってしまったようで、明里は燃えていた。
　あかりはバカではあるけれど、不真面目ではないのなの！　前に逃げようとしたこともあったけれど、そこはご愛嬌。目の前の問題を解くことに一生懸命な明里は、確かに責任感というものを身に付けていたのだった。

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