ブラームスはお好き？｜リアクション

ブラームスはお好き？

　演奏が途切れたタイミングで、年代物のオーディオから気だるげなクラリネットの音が聴こえてきた。人を食ったようなグリッサンドと、ジャズの語法による洒落たメロディー。ガーシュウィン作曲の『ラプソディー・イン・ブルー』だ。
「私の持ってきたCDだ……」
　八葉ひまりはお手伝いの手を止めて、お茶を飲んでいた。
「クラシックを知ってまだ日が浅いけど、最近はいいなって思える作曲家もできた。クラシックとジャズを混ぜた作品を残したガーシュウィンは、聴いていて楽しい気分になる。
「でもまだまだ知らないことばかりで……奥が深いな」
　隣には、基礎練習を終えて他の人の演奏を聴いていた花厳望春が座っている。
「やっぱり、他の人は上手だなぁ。俺のなんて下手の横好き……」
「うん、やっぱり皆すごいな……私なんか全然及ばない」
　望春とひまりは、響也たちのヴァイオリンに少し気後れしてしまっている。
「―――っと、ネガティブになりすぎるのは良くないな。音楽は楽しんで演奏しなきゃだめだもんな」
　望春が、自分に言い聞かせるように言った。
「どこかのタイミングで、オーボエを誰かと演奏できたらいいな」
「私も、使うかどうかわからないけど、トランペット持ってきた。音合わせくらいはしてみたい」
　ひまりの言葉を聞いて、望春が申し出る。
「よかったら、合わせてみようよ。ソロで演奏するよりも、皆で演奏できたほうが絶対楽しい。発表会とか、大勢の目の前で演奏するのは苦手だけど、こういう場での演奏は気楽にできて好きなんだ」
「ありがとう……。でも、トランペットとオーボエの曲なんてあるの？」
「いい考えがあるよ」

　前に出た望春とひまりが奏でたのは、トランペットの基礎的な練習曲だった。ひまりがトランペットを吹き、望春がピアノ伴奏譜から音を取り出してオーボエで伴奏する。ピアノを習っているので、ピアノ譜を読むのは苦にならない。
　素朴だが愛らしい曲で、何より合奏している楽しさが伝わってくる演奏だった。曲が終わると、二人は少し面映ゆい気分でお辞儀をした。