シーサイドタウンにある音楽会館。
小さなホールの真ん中で、
篠崎 響也は、ひとりでヴァイオリンを構えていた。
ゆったりとしたテンポと、甘い旋律。どんな人でも包み込んでしまうような優しい響きが、ホール全体を支配した。
「ブラームスのヴァイオリン協奏曲、第二楽章だね」
曲が一区切りしたとき、不意に後ろから年配の男性の声が聞こえた。
木原 一颯が、ステッキを手に入口のところに佇んでいる。今まで一心に集中していた響也は、驚いて言った。
「木原さん……いつからそこに? 声をかけて下さればいいのに」
「さっきから居たけれど、せっかくの演奏を止めるのは無粋な気がしたから」
静かに微笑みながら、木原はホールの椅子に腰掛ける。
「また、腕を上げたね。今日のお茶会に備えてかい?」
「いえ……今日の練習というつもりはなく、一人でいたら、つい弾いてみたくなったんです」
二人が所属する
寝子島クラシック同好会は、老若男女問わずクラシック音楽に興味のある人すべてに門戸を開いている。今日は、同好会の主催で「クラシックお茶会」が開かれる予定だ。普段の音楽会とは趣向を変えて、普段クラシックに馴染みのない人も、親睦会感覚で参加できるようにした。楽器のできる人は即興演奏をしてもいいし、クラシックに詳しい人はおすすめのCDを紹介してもいい。もちろん、お茶を飲みながらずっと聞き役をしていてもいい。
「開場の五時には時間があるね……もし篠崎君が演奏してくれるなら、楽しみだが」
木原はいたずらっぽく笑う。
「そのヴァイオリン、そろそろ弦の替え時ではないかな」
「ええ、お察しの通りです……」
腕に覚えのある職人の耳はごまかせないな。響也は内心で舌を巻いた。
皆様こんにちは、三城俊一です。
今回は、篠崎 響也さんと木原 一颯さんにガイドに登場いただきました。ありがとうございます。シナリオにご参加いただける場合は、ガイドでの内容は気にしなくても大丈夫です。
今夜は、シーサイドタウンにある音楽会館の小ホールで「クラシックお茶会」が開かれます。日時は休日の夕方五時から。閉会時間は不定で、流れ解散です。
主催は「寝子島クラシック同好会」。普段は同好の士で集まりを開いていますが、今日のお茶会は同好会の会員でなくても参加できます。偶然、音楽会館の入口の看板を見て立ち寄ったという形でもOKです。
楽器演奏をしたい方、好きな音楽について語ったり教えてもらったりしたい方、飲み物やお茶菓子の用意などの手伝いをしたい方……。年代物のオーディオがあるので、持ち寄ったCDやレコードをかけることもできます。
思い思いでの参加を、お待ちしています。
〇NPCについて(必要に応じて登場します)
花咲夫妻……寝子島クラシック同好会を立ち上げた音楽家夫婦。高齢(ともに80歳)を理由に、篠崎 響也さんに代表代理を依頼しました。夫の花咲氏はピアニスト、花咲夫人は作曲家です。ホールの片隅に腰掛けて、演奏や参加者の話に耳を傾けています。