ブラームスはお好き？｜リアクション

ブラームスはお好き？

「クラシック同好会でお茶会かぁ……そういえば、随分とご無沙汰してるのよね」
　深林真瞭は、花咲夫妻からの招待状を手に取って眺めた。クリスマスから年明けにかけて、オーケストラはコンサートラッシュを迎える。クリスマスコンサート、年末の第九、年始の新世界。所属している交響楽団でのリハーサルに追われる中、合間を縫って一日だけ休暇を取って寝子島に戻ってきたのだ。
　秋頃、彼女の所属する楽団は派閥抗争のごたごたに見舞われた。世間の関心は既にほかの芸能人のスキャンダルに移ったが、楽団の空気はまだ居づらい。一日でもいいから、煩わしいことを忘れる時間が欲しかった。
　そこへ、花咲夫妻からの「クラシックお茶会」の誘いが来たのだった。
「息抜きにはちょうどいいかな。久しぶりに顔を出してみようっと」
　真瞭は身支度を整え、愛用のヴァイオリンを手にして星ヶ丘の高級マンションを出た。

「だいぶ人も集まってきましたね」
「……ああ」
　花咲千鶴子（はなさか・ちづこ）の言葉に、夫である花咲重嗣（はなさか・しげつぐ）はそっけなく答えた。社交的でよく喋る妻に対し、夫の方は非常に寡黙な性格をしている。今日もいつも通り言葉少なだが、重嗣の機嫌が良いということは、夫人にはきちんと伝わっている。連れ添って半世紀近く、二人はいつもこの調子だった。
　今日は、シーサイドタウンにある音楽会館で「クラシックお茶会」が開かれる。クラシック同好会の会員たちの準備も順調に進み、こぢんまりした会場も徐々に賑やかになってきている。

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