ブラームスはお好き？｜リアクション

ブラームスはお好き？

　篠崎響也は、満ち足りた気分で目を細めていた。彼は、音楽から色を感じ取る共感覚の持ち主だ。修のヴァイオリンは端正な紫。望春とひまりの合奏は明るい橙。セレッソのチェロは元気の出る黄色。直治のグロッケンシュピールは煌く銀。エリューシアのソプラノは絹のように美しい白。そして、真瞭のヴァイオリンは燃え上がるような赤。共感覚で見える鮮やかな色が気持ちを高揚させる。この感覚には時々困ることもあるけれど、色が見えて良かったと思う。
「花咲さん、奥さん。あの……気に入っていただけましたか？」
　外がすっかり暗くなり、少しずつ人がはけていく頃、響也は片付けの手を止めて花咲夫妻に問うた。
「もちろんよ。私たちの代わりに、色々していただいて本当に感謝しているわ。どうして、改まってそんなことを？」
　千鶴子は快活に笑って答える。
「俺は、貴方たちの代わりをちゃんとできてるのか、正直自信なんてありません。でも、これからも会の活動を頑張っていこうと思います。貴方たちに託されたからだけじゃなくて、一緒にこうやって音楽を共にしてくれる皆と、これからも色々な音楽に触れていきたいからです」
　溢れてくる想いを、響也は一つ一つ大切に言葉にしていく。
「今、同好会がこうして運営できているのも、貴方のおかげよ。本当にありがとうね」
　千鶴子が優しく微笑む。響也は夫妻に対して、丁寧に頭を下げた。
「ここでたくさんの人に会えたからこそ、たくさんのことを学べました。お礼を言わなきゃいけないのは俺の方です。俺に貴方たちの大切なものを、託してくれてありがとうございました」
　響也の言葉を聞きながら、重嗣は相変わらず口をへの字に曲げたまま、うんうんと頷いていた。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：三城俊一
ファンレターはマスターページから！

皆様、ご参加ありがとうございました。

音楽とともに過ごしたひと時はいかがでしたか？
それぞれの音楽への思いを表現できていれば幸いです。

私事ですが、大学時代はオーケストラに所属しておりまして（コントラバスパート）、クラシック音楽には個人的に思い入れがあります。
演奏からはしばらく離れていますが、文章を書くときも音楽描写には自然と力が入ります。

ちなみに、私自身の好みはマーラー、ブラームス、チャイコフスキーの交響曲です。
今回も、色々な曲について描写することができ、楽しい執筆期間でした。

では、また機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします。

↑ページトップに戻る