ブラームスはお好き？｜リアクション

ブラームスはお好き？

「折角だし、誰か一曲演奏してみないか。望春のオーボエ、御薗井のチェロ、結城のヴァイオリン……誰でも、遠慮なく」
　篠崎響也が皆を促してみるが、最初に皆の前で演奏するのは誰でも気が引けるようだ。響也も別に無理は言わず、ごくやんわりとした口調だ。
「それじゃ、言いだしっぺの俺が弾こうか」
　響也はそう言って、調弦を済ませたヴァイオリンを取り出す。天国を思わせるような、澄んだ音色がホールに響き渡った。
　シューベルトの『アヴェ・マリア』―――聖母マリアに捧げる祈りの音楽にふさわしく、聴く者の心を清らかにさせる名曲だ。伸びやかで気品に満ちた旋律は、端正な響也の演奏スタイルにぴったりと合致していた。
　演奏を終えて一礼した響也に、一同は惜しみない拍手を送った。
「相変わらず素晴らしい腕だ。無心で聴きいったよ」
　八神修が感想を言う。
「ありがとう。アヴェ・マリアって好きな曲なんだよな。初めて弾いた曲でもあってさ、思い出深い……この曲をちゃんと弾けるようになるまでに、何度も何度も練習したんだよな」
　響也は、曲への思いを噛み締めるように述懐した。