ブラームスはお好き？｜リアクション

ブラームスはお好き？

　木野聖華は、『クラシックお茶会』の立て看板に目を留めた。
「んー……クラシック、お茶会？誰でもOKって、自分もいーのかな」
　小学校の頃から打楽器に親しんでいる聖華は、大いに興味を惹かれた。
「鈴カステラとか、ねこーひー牛乳はあるのかねー？」
　聖華は、鍵のかかっていない扉を開ける。
「ちわー、表の看板見て来たんスけど、自分もお邪魔して良いっスか？」
「もちろん歓迎です！どうぞ、座ってください」
　お茶を入れる手伝いをしていたエリューシア・セリアンが答えた。彼女もまた、今日のお茶会を楽しみにしていた一人だった。自分が演奏していないときは、お客のお茶やお菓子の残りに気を配って、足りないところに補充して回っている。
「どうぞ、召し上がってください。クラシックはお好きなんですか？」
　エリューシアに出されたお茶を受け取りながら、聖華は答えた。
「ええ、自分はずっと打楽器やってるんで……。あ、自分、寝子高吹奏楽部の木野聖華って言います、よろしく」
「私はエリューシア・セリアンといいます。こちらこそよろしく。聖華様は、好きな曲はありますか？」
「ああ、自分はパーカッションなんで、好きな曲とかは特に……モーツァルトは、聴いてて面倒くさくないから聴くけど」
　普段仏頂面の聖華だが、好きな音楽について語ると結構饒舌になるのだった。

　花厳望春は、白い息を吐きながら音楽会館への道を急いでいた。手にした入れ物には、手作りのクッキーが入っている。音符の形に型抜きした、ごくシンプルな風味のクッキーだ。
（開場時間に間に合うように来るつもりだったけど……）
　クッキーを焼いていたら、少々時間がかかってしまった。
　会場の扉をそっと開けると、楽しそうな話し声や、誰かが楽器の音を出しているのが聞こえてくる。世代を問わず、音楽を愛する人たちが集まっているのを感じて、気分が少し高揚した。
　しかし望春は、輪の中心からは離れ、いつも練習するときのように邪魔にならないところに陣取った。そして、手にしたケースからオーボエを取り出す。
　周りは上手な人たちばかりだから気後れするけれど、彼にも上手になりたい気持ちはあった。
「もっと上手くなりたいし、練習あるのみだよな」
　望春はリードを咥えると、長く持続する音を出した。基礎練習のロングトーンだ。続いて、運指の上達のための音階練習。序盤は曲を吹くことなく、ひたすら基礎練習に費やした。

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