土曜日は島外で｜リアクション

土曜日は島外で

　
　ある日。御剣刀、小山内海、橘千歳の三人が商店街で福引をした。
　三人の買い物で貰った福引券を合算して一回分、ガラガラと回すと、見慣れない色付きの玉が丸い穴から飛び出した。
「おめでとうございます！　二等、家族で楽しむ『日帰り温泉』券でーす！」
　と言う訳で、彼らは温泉の無料券を手にいれたのだ

　迎えた休日。
　刀と千歳は剣術の練習を終えて、千歳お手製の弁当を食べ、自室でシャワーを浴びてからの、のんびりした出発だった。
　電車内ではトランプで時間を潰し、車窓から見える緑がどんどん深くなっていく様を楽しむ。

「いい眺めだな、気分がいい」
「ええ、温泉って久しぶりだわ。チケットにはファミリーってあったけど、別に家族じゃなくても大丈夫で良かった」
　千歳が言うと、海はスケッチブックに文字を書き込んでいく。
「三人で分けっこしようって言ってたけど、まさか温泉のチケットが当たるなんて」
　と、驚きと喜びを二人へ伝えた。

　そうして温泉旅館に着いてまずはのんびり、と思っていたところで——
「部屋に着いたら早速昼飯だ！」
　刀が勢いよく提案した。
「もう！？　少しはゆっくりしたら？」

　千歳は彼の落ち着きのなさに呆れ顔だったが、彼女の腕を海がくいっと引いてロビーの時計を示した。
　確かに時刻は昼食どきである。
「もう腹減ってさ、電車の中でグーグーなってたんだよ」
「仕方ないわね……」
「レストランは向かって奥にございます。軽食でしたらロビーのラウンジもご利用頂けますよ」
　部屋に案内してくれた仲居が、微笑みながらレストランの場所を教えてくれた。
「どんな料理ですか？」
　と、海がスケッチブックを見せる。
「ラウンジはサンドウィッチやピザがございます。
　レストランは和食が中心で、山菜料理や自然薯が美味しく頂けますよ。ですので私は蕎麦をお勧めしております」
「なるほどー、同じ県内でも場所が変わると料理も変わるよな。
　はー……何頼もっかなー。海と千歳は何がいい？」
「そうね、せっかくだし、レストランにして蕎麦にしようかしら」
　千歳が海を振り返り、三人で昼食の予定を立てていった。

　仲居にお勧め通りにレストランで食事をし、満腹になったところでいよいよ風呂の時間だ。
　ここで改めてチケットと景品の説明の紙を見ていた海が、ある一行を指でなぞる。
「家族風呂？　ああ、部屋についてたわね」
「そうか、ファミリーチケットだもんな」
「せっかくだからみんなで入ろうよ、そうじゃないと醍醐味が味わえないよ」
　海はさらっとスケッチブックに書き込んだが、これには刀が驚いた。
　家族風呂に皆で——。実行すれば海と千歳と、裸で同じ風呂に入ることになる。よしんばタオルを巻いたとしても、そんなものは大した違いではない。身体のあらゆる箇所の凹凸があらわになって、寧ろ妄想が掻き立てられるだけだ。
（流石に三人で入るのはまずいだろう……！　だが、ココで遠慮しては男が廃る！　俺は行くぞ！）
「そりゃ一緒に入れるなら喜んで！」
「でも大浴場も使えるみたいよ。
　大理石にガラス張り、かなり大きいみたい。どうせなら大きな湯船で寛ぎたいわよね」
　キリッと表情を作った刀の声に被さって、パンフレットを開いていた千歳が口を開いていた。
「アッハイ、そうですね」
「どうしたの、刀君。なんか、締まりない顔になってるわよ」
「アッイエ、なんでもないです」
「そう？　じゃ、また後でね。小山内さん、行きましょ」

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