ザ・追試　～問題用紙が逃げ出した！？～｜リアクション

ザ・追試　～問題用紙が逃げ出した！？～

　前フリ：先生、助けてくださいッ！

　――某日・某所：追試会場

　追試に参加する者たちが準備する中、２人の女子生徒からただならぬオーラが漂っていた。１年２組の鬼河内萌と鬼崎あやめのコンビである。
「とうとうきちゃったね、追試の日」
「ふふふ、やってやったわ。あのフジコ先生の特別授業を乗り切ったんだから、怖いものなんてないわ……」
　微妙に２人ともやつれているように見えるのだが、そんなのは序の口である。萌はなぜかこっそり剣山を持ってきているし、あやめの首には何やら金属製の首輪っぽいなにかが輝いている。一体何があったんだ、と聞きたくなるほどだ。
「「もう、なにもこわくないわ」んだから」
　萌とあやめは、ふふふ、と笑いあう。そんな２人のオーラに、追試受験者はドン引きしていた。試験監督の瓜山メイまでちょっと引いていた。
「あ、あの……そろそろ追試をはじめようと思います。筆記用具と試験に必要なものだけを出し、待機していてください」
　メイの言葉に頷く一同。
　問題用紙が配られていく中、２人の脳裏には追試決定直後のことがありありと蘇った。

　――回想――

「桐島先生ぇ～！　たすけてぇ～！」
　萌は数学で赤点を取り、追試を受ける羽目になった。この教科は萌にとって場合によっては心肺停止に陥る（？）ほど苦手な教科である。担任である桐島義弘は「鬼河内、泣くんじゃない」とつとめて穏やかに言うととりあえずハンカチを貸し、深呼吸をするようにいった。
「つまりは、どうしたい？」
「お願いです、補習してくださいっ！」
　萌はしゃくりあげながら義弘に頭を下げる。彼は少し考えながら「わかった」と小さく頷く。そして、その日の放課後から放課後の補習に挑んだ。
（このままじゃユウくんの後輩になっちゃう！　そんなのは嫌ぁっ！）
　数学は拒絶反応を起こすほどの苦手教科である。それでも、恋する乙女としては進級しておきたかった。

　そして、同じ頃。あやめは２年担当教諭陣のデスクにいた。
　震えるあやめの前には、富士山権蔵。通称フジコ先生である。フジコ先生は、あやめが赤点を取ったことを既に知っている。
　ため息を吐いたフジコ先生はどこか虚ろになりかけた眼のあやめに対し、僅かに口元を綻ばせた。
「覚悟、できてるんでしょうね？」
「はい……」
　フジコ先生の問いに、あやめはがちがちになりながら答える。
「教科は数学と英語に二教科。そして、もう時間がないわね」
　フジコ先生は僅かに目を閉じて考える。あやめは何を言い渡されるのかドキドキしながらまっていた。
　ややあって、フジコ先生はくすり、と笑って目を開く。あやめの背中に冷たい汗が流れ、フジコ先生の眼がキラーン、と光った……ような気がした。
「今日から放課後、みっちりと補習授業をやりましょうね」
「は、はい……っ！」
　この時、あやめは「あー、またどぎつい事になるんだろうな」とは思っていた。ついでに言えば拒否権なんてないだろうなぁ、とも思っていた。

　――現在。

（いけない。あの悲惨なトラウマ級の出来事を思い出してちょっと意識失いそうになったわ。ここで失神なんてしたらフジコ先生にどんな目に遭わせられるか……）
　あやめはめまいを覚え、気を引き締めようとした。が、思い出されるフジコ先生との濃厚な補習授業（？）を思い出し、すっぱい物がこみ上げてきた。一体何があったというのだろうか？
　そんな様子を心配したのだろう、メイがあやめの肩をやさしく叩く。
「あの、体調が悪いのならば後日受ける形でも大丈夫ですよ？　保健室で追試を受けることも……」
「だ、大丈夫ですっ！　ここで大丈夫ですから！」
　あやめの物凄く真剣な眼差しに押され、メイには「た、体調を崩したら手を上げてくださいね」と　念押しすることしかできなかった。

　そんなこんなで、追試という正念場は幕を開けた。

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