ザ・追試　～問題用紙が逃げ出した！？～｜リアクション

ザ・追試　～問題用紙が逃げ出した！？～

　前編：フツウの追試風景

　――追試開始の１５分前・校庭

「聞いてはやぶさ～、ひびき、テスト凄く点数が上がったんだよ」
　天馬ひびきはペガサスのぬいぐるみである『はやぶさ』に語りかけていた。はやぶさはこくこくと頷いているように見える。
「うん、頑張ったよぉ！　中間テストよりこーんなにだよ！」
　ひびきは身振り手振りを交えて（そしてはやぶさも揺らし）語る。だがそんな彼女にはやぶさが語りかけた（ようにひびきには思えた）

　――ねー、ひびきちゃん。美術はー？

　先ほどまでおひさまのような笑顔だったひびきの表情にさっ、と影が降りる。
「あー、美術？　……うん、うーんー、美術はねぇ、寝ちってた」
　きゃはー、と苦笑するひびきだったが、ここで何かを思い出す。追試である。今日は追試を受ける日だったのだ。思い出したひびきは「あ、いけにゃいっ！」とダッシュして会場に駆け込んだのだった。

　――現在。

　そんなひびきは今、勉強したことを振り返りつつ美術の問題と向き合っていた。はやぶさはかばんの中で応援してくれている（とひびきは思っている）。
（勉強ちょー頑張ったよ！　枕の下に教科書引いて寝たし、おまじないもだいじぶ！　教科書も沢山読んだしっ！）
　ひびきは重要な内容文に線を引いたり、落書きした教科書（ビーナスの誕生に「寒そうだったから」と服を書いたり、作者の写真に噴出しをつけたり）の内容を思い出しながら問題を埋めていった。……が、しかし。
（これは……えっと、サーモントラウト？　クロだっけタマだっけ……違うなぁ）
　とある問題で詰まり、頭を抱える。
（うー、ミケだったかなあ？　……サーモン咥えてミケがにゃーん♪）
　そして、考えすぎて思考かずれていくひびき。だが、そこで彼女の脳裏にはやぶさの声が響いた（気がした）。

　――ひびきちゃん！　そこの答えはニケだよっ！！

「ありがと、はやぶさ！」
　ひびきははやぶさにお礼を言って問題の答えを記入する。その後も時折はやぶさの声に導かれるように答案用紙を埋めていくひびきなのであった。

　その近くでは、羽生碧南が必死になって音楽の問題を解いていた。とある中間テストで音楽の赤点をとった碧南だが、またもや赤点を取ってしまった。
（二度あることは三度ある、と言うわけなの？　うぅ、……乙女ゲーム封印して猛勉強したのに……）
　そして、今。彼女は物凄くピンチに陥っていた。問題が、まったくわからないのである。勉強したはずなのに、なにも答えが出てこない。
（留年だけはいや！　留年だけは……！　なのに、なんでわからないのっ？！）
　頭を抱え、涙目になる碧南だったがここで急に我に返る。脳裏に聞き覚えのあるやわらかい声が響いた。
『落ち着いて、碧南。そこの問題は、よく読めば答えがあるよ』
（その声は……季也さん？！）
　神宮季也。それはこの前発売されたばかりの『REPLICA SONGⅡ』のキャラである。前作に登場した神宮先生の弟で音大生。もちろん攻略対象だ。（因みに先生は攻略不可）
　その季也さんが優しい声と笑顔でヒントをくれている。それに気づいた碧南の眼差しがすっ、と落ち着いたものに変わった。
『ほら、そこの問題は勉強したところだよ。思い出せるはずさ』
「うん、がんばるっ。季也さん……私、絶対に負けないから……！」
　手を握り締めて問題を解く碧南の眼差しは、バスケットの試合をしている時のように真剣そのものだった、と後から同じ部活の友達は語っていた。

（２学期の期末テストで赤点を取って、その時の追試も体調が悪くて休んじゃったのですよね……）
　情けないです、としょんぼりするのは稲井いおね。さすがに二の轍を踏むまい、と体調を整えての参戦だ。
　彼女は眼鏡をかけなおし、深呼吸をして問題に向き直る。今日の追試をクリアすれば留年は阻止できるのだから。
（あの時、出来なかった部分の復習もばっちりしたし、３学期の期末テストも悪くは無かったから上手くいくはずです。もうおじいさまにもおばあさまにもこれ以上心配は掛けられないのですよ！）

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