期末テストだよ！中学生諸君、全員集合！！＜物語編＞｜リアクション

期末テストだよ！中学生諸君、全員集合！！＜物語編＞

●テスト結果返却後【当日学活～放課後】

　テスト結果が返される帰りの学活の時間。静かなざわめきの中新江天懸は独り頬杖をつき、窓の外を見ていた。

　第３学年。受験を目の前にしての最後の公的な試験。大半の生徒の目は真剣だ。そしてその空気に少し酔った様に、厳かなフリをしてる様にしてテスト結果を返す担任。天懸にとっては何もかもが阿呆らしかった。
　耳にはピアス。頭頂が金髪の坊主頭。見てくれはまごう事なき不良中学生。素行もナンパに力を入れたりと決して褒められたものではない。不良嫌いの担任が自分をどんな目で見ているか天懸は知っているつもりだ。
　先公なんてどいつもこいつも偉そうだ。テストなんてその極みだろう。「俺達がお前らを評価してやる」ってか？　見ろよあの顔を。自分が神様にでもなったつもりかよ、バカバカしい。
　天懸はだるそうに机に体を投げ出す。無造作に置いた自分のテスト結果が目に入った。
（これを俺に返した時のあの先公の顔。よっぽど悔しかったのかね）
　きっと担任は俺の成績が低いのを願っていたに違いない。そしてこれだから不良はとうそぶきたかったに違いない。
　だがお生憎様。お前らが大事に大事にしている勉強とやらは、俺には大して難しくも苦痛でもない。生まれつき、出来ちまうんだよ。そう、生まれつき。ムカつくけど、血って奴なのかね。
「……くっそ！」
　天懸は起き上がりガンッ！　と自分の机を蹴飛ばす。周囲の生徒が何人か驚いてこちらを見たが、気にも留めなかった。どうせクラスメイトの顔もろくに覚えてないのだ。
　あー、くそ面白くねえ。早く帰って遊びにでも行くか。

　自主的に学活を強制終了した天懸は、誰もいない廊下を１人歩いていた。そして階段にさしかかったとき、下から声がした。
「誰ざますか！　まだ学活の時間ざますよ！」
「ああん？　……って杉村かよ」
「また、貴男でしたか」
　階段を上ってきたのは杉村小春校長だった。問題を起こしがちな天懸、杉村校長とは何かと縁がある。
　杉村校長はくいっとメガネを直し言った。
「こんな時間にどうして外に出てるざますか。まだ学活は終わってないはずざますよ」
「テスト終わったから自分にごほうびだっての。見ろよこの点数」
　天懸はカバンに突っ込んだテスト結果を杉村校長に手渡した。彼女はそれを一瞥すると黙って天懸に返した。
「なかなかだろ？　クラスの平均もきっと上げてるし、このままいけばいい高校はいれるかもな」
「貴男が優秀な生徒だという事は知っているざますよ」
「……冗談だよ、冗談」
「この様な素晴らしい成績、嬉しくないざますか？」
　杉村校長の問いに、天懸は肩をすくめた。
「テストなんて保護者が見てなんぼだろ。俺は今親と暮らしてないし。誰にも評価されないテストって何の価値があるのかよくわかんねー」
「価値、ざますか？」
「誰にも褒められない、怒られない、ただテストを受けただけ。先公共が俺の扱いをどうするのか、見て楽しむくらいだろ」
　ははと笑いかけて、天懸は止まった。杉村校長が真剣な目で天懸を見つめていた。その心に問い掛けるような視線にどきりとする。天懸は慌てて言った。
「というわけで、杉村またなー！」
「あ！　話はまだあるざます！　それに学活も終わってないざますよ！」
　呼び止める杉村校長を振り返らずひらひらと手を振ると、その声を振り切るように天懸は階段を下りていった。

　誰もいない校庭を、天懸は歩く。
　テストを受ける。遊びに繰り出す。誰も何も言いはしない。気にも留めない。
　家に帰る。どこの家だ。―――本当はどこにも帰る場所などない。