１０１匹テオさん｜リアクション

１０１匹テオさん

【３】

　ジェレミア・ベルトーニは、星ヶ丘でオレンジ動物病院を開く動物臨床獣医師である。
　彼は自宅に隣接して開いているその医院で獣医の仕事をするかたわらで、島の猫達の生態観察をもライフワークとしていた。

「今日はなんだかそっくりさんなネコが多いねぇ」

　そんなジェレミアもまた、島の猫事情の異変にいちはやく気づいた、いわゆる「ひと」の一人だった。

「というか、いつものニャンコ達より明らかに多いよね？　しかも、似た模様のニャンコがものすごくたくさんいるよね？」

　ジェレミアは「ひと」なのでテオの声が聞こえたりはしない。
　なので、すわ「また神魂の仕業か……！？」などと思ったりもしないし、「よし、テオさんを弄り倒そう！」などと思ったりもしなかった。
　ただ一人の猫好きとして、そして一人の獣医師としての好奇心が、今回のジェレミアを突き動かした要因の全てだった。

「研究ノートにない個体がこんなにたくさんいるなんてびっくりだよ。さっそく調査をしないとね」

　さいわい今日は医院は休診である。
　ジェレミアはさっそく調査に乗りだすことにする。
　猫を怯えさせないように、何気ない仕草に交えながら情報収集を開始する。
　まずは手帳に遭遇日時と場所とを記載。
　さらに日時だけでなくパッと見でわかる範囲で外観に関する情報も記述していく。
「灰白のハチワレ、左手７分袖、右手半袖、くつした。しっぽの先は白、と」
　ちらちらとノートと猫の間に視線を往復させながら、蓄積されていくデータが証明する一つの奇跡のような結果にジェレミアは感嘆の吐息をつく。
「柄もみんな全く同じだ。凄いなぁ」
　こんなこともあるんだねぇ、とジェレミアはしばし世界の神秘に触れたような感慨にふける。
「よし。次はとりあえず手近な親子猫を引き寄せてっと」
　それから、ジェレミアはゆっくりとニャンコに接触を試みた。
　ジェレミアは獣医なので、動物の扱いは手慣れたものだった。
　無論、猫もその例外ではない。
　さりげなく母猫の隣に座り、おもむろに取り出した猫じゃらしをチョイチョイと動かして、瞬く間に猫達の心を掴んでいく。
「良い子だね。可愛いね」
　と、母猫を褒める。別に雌だから褒めたというわけではない。たぶん。きっと。実際、雄の子供達もちゃんと可愛い。
　ジェレミアは猫達と目が合うと、ゆっくりと瞬きをして、自らに敵意がないことを伝える。
　ゆっくりと手を伸ばし、触らせてもらえたら、気持ちよさそうに目を細めるポイントをさぐって丁寧に撫でていく。

「にゃあ」
「にゃあ」
「にゃあ」

　ニャンコ達は存外素直だった。
「ふむ、良い子だね。それじゃあまずは健康チェックだ」
　ジェレミアは、にっこり笑うとニャンコを抱き上げて、怪我や病気の気配がないかを調べていく。
　それから膝の上に乗せたり、頭を撫でたりして、猫達とのコミュニケーションをとっていく。
　
　気がつけば、調査はそっちのけで猫と遊びに夢中になっている、そんな本日のジェレミアなのであった。

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