悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜｜リアクション

悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜

「……そういうわけだ。死にたくなければ、逃げてくれ」
「そんな……」
　目の前に現れた築地哲の説明を聞き、仙藤紫は困惑を隠しきれなかった。これまでは歴史改変をめぐる抗争とは無関係だったが、今回巻き添えを食らってしまったのだ。
　しかも、飛ばされた先が切り裂きジャックのうろつくロンドンとは！つい最近『もれいび』になったばかりの自分にはいささか荷の重すぎる展開に溜め息が出る。しかも、自分のろっこん〈指先スキャン〉は、「経年劣化等で判読不能になった文字列を読み取れる」というもので、およそ戦闘向きではない。つまり、ここでは実質「ひと」も同然なのだ。

「すまないが、他に巻き込まれた人を探してくる。君はもっと安全な場所に隠れたほうがいい」
「待って築地君、怪我は―――」
「大丈夫だ、まだ歩ける……」
　霧の中に消えた哲を見送ると、紫は腹をくくった。
「戦うのは他のもれいびに任せるべきね」
　戦闘が不得手である以上、どうしようもない。「夜明けまで逃げ果せれば、元の世界に帰れる」という言葉を信じて、イーストエンドの可能な限り安全そうな場所を選んで逃げ回るのだ。
　
　切り裂きジャックにすっかり怯えているのか、通りには人っ子一人いない。外で蠢いているのは、切り裂きジャックの他は飛ばされてきた自分たちだけではないか―――そう思うと、心細さから自然と足が速くなった。神経を集中させ、針の落ちる音すらも聞き逃さず、空気のかすかな揺らぎすらも感じ取るほどに、紫は周囲に警戒を張り巡らせた。
　ふと、通りの向こう側に小さな人影が現れた。紫は体をこわばらせたが、近づいてくるその人影は女性のものだ。なんだか危なっかしく感じた紫は、彼女に声をかける。
「あなた、この一帯は危険よ―――」
「ありがと、お嬢ちゃん。……怖い事件が起きてることは知ってるけどね。でも、なにか食べさせないと、うちの赤ん坊はもう持たないのよ」
　その女性、通称『赤毛のジェニー』は、見事な赤毛をかきあげながら、弱々しい笑みを紫に向けた。

（※マスター註：時系列的に、ここでシナリオガイド本文に繋がる）

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